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00腐/Ailes Grises/ニルアレ

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【冬の物語 喪失】








リュックをせおったソランが玄関先で待っていた。
どうやら本気らしい、ロックオンは。
二人ぶんの名札を外出中の所に下げ直し、アレルヤはソランに手を引かれるまま街へと連れられた。
身長が一番小さなソランと、一番大きなアレルヤが手を繋ぐとアレルヤは歩きながら少し腰を屈めなければならない。
少し腰が痛いがそんな事よりも、細く柔らかなソランの腕が抜けてしまわないかアレルヤにはそっちの方が気が気でなかった。
小走り気味に坂を下るソランが転んでしまわないか、そんな事を考えると肝が冷えるような心地だ。
いつもロックオンはこんな気持ちなのだろうか……自分なら耐えられない。ロックオンに連れられて街へ行った時は大通りを通っていったが、ソランは細いあぜ道を選んで行く。足を滑らせて水路に落ちてしまわないか……ああ自分なら絶対無理だ、子どもの相手は。
ロックオンはなんて頑丈な精神力をしているんだ……とアレルヤは身に染みて思う。
「ソラン、何処から行く気なんだい?」
「はちみつやさんー」
はちみつやさん?そんなのあったっけ……とアレルヤは考えを巡らせるが、まともに街へと来たのは二度目だ。
ロックオンと来た以来でホームと同様街の地図は頭に入っていない。
ソランの選んだ道はどうやら大通りよりも近道だったのか、ほぼ真っ直ぐ延長線上の道なりで街まで辿り着いた。
それらは用水路の横の、農道とも言えない道や、すすき野を掻い潜ったりもしたのだが……。
噴水のある広場には花や収穫した野菜を売っている露店が並んでいる。
もうすぐ冬越しの祭りがあるそうだ。いつもより街中は賑わい沢山の露店がこぞって祭りに使う蝋燭や服、飾りを売っていた。
その中に蜂蜜を売っている店があったが、ソランはそこを無視して広場を抜けて行った。
「はちみつやさん、あそこじゃあないの?」
すったすったと進んで行くソランの足取りに淀みは無い。
広場に通じる通り沿いに、六つの羽の紋様をあしらった看板が見えてきた。
ソランが指差す。店内にはたくさんの種類の蜂蜜が並んでいるのが外からでも見えた。
「やあソラン。一人でおつかいかな」
「そうだったらよかった」
「おやおや……でもえらいねえ」
「いつものはちみつください」
「ロックオンの分、ちゃんと取ってあるよ」
どうやら顔馴染みらしい。年老いた店主は店の奥から大事そうに蜂蜜の入った瓶を取り出して小さな小瓶に分け入れてくれた。
珍しい種類のだからね、と店主が呟く。
アレルヤは前にロックオンが見せてくれたようにして手帳を切って精算を済ませた。


「ソラン、次はどこへ?」
「おくすりやさん」
てこてことソランはまた広場をスルーして違う道筋へと向かう。
いつの間にか繋いでいた手は離されてしまい、アレルヤは少し手持ち無沙汰になってしまった。
小走りのソランの後ろを大股で追っているうちに、道中ピンク色に揺れる髪を見付けた。フェルトだ。
「あ、フェルト」
「アレルヤ、それにソランも……珍しいね?」
「ロックオンのおつかいに。フェルトは?どうして街に?」
「私はそこの図書館で働いてるんだ」
「こんど、ほん、かえす!」
「あっ……それなんだけど……」
ソランの言葉にフェルトは少し困ったような顔をした。
「それがお祭りが終わるとね、図書館の館長さんがお仕事辞めちゃうの……それで今引継ぎで大忙しで……」
曰く、貸し出し期限を延長しているらしい。あまりの忙しさで、いつお昼が食べれるか分からないから今フェルトが早めにみんなの分のランチを取りに行く所なのだという。
「ねえアレルヤ、まだお仕事決まってないなら……うちでバイトしない?期間限定でもいいから」
「えっ……僕なんかでいいのかい?」
「書架の整理もあるから、今は力仕事してくれる人出が欲しいんだ」
「分かった、お手伝いぐらしいか出来ないけれど、僕でいいなら」
「ありがとう!一応今度の休館日はクリスもお手伝いに来てくれるの。その時にアレルヤも」
じゃあまたね、と進む道の途中別れる。
思わぬ話が舞い込んで、アレルヤは改めて自分の今の立ち位置を考え直さねば、と思案した。
そうだ自分は年長なのだから働かねばならないのだ。いつまでもロックオンやクリスの優しさに甘えてなどいられない。
どうせなら色んな店を見るついでに仕事先も探してみよう、と、アレルヤはソランの後ろを追いながら考えた。


「ソラン、ここかい?」
「うん。ここ……アレルヤ、開けて」
「え?」
進んだ道の途中、急にソランは立ち止まり数メートル引き返した。
どうやら目的の店のようだが、ソランは追い付いたアレルヤの後ろに身を寄せる。
色々な店が軒を連ねているが、この店の扉の向こうはおどろおどろしい。
ソランに押されるようにしてアレルヤたちはその店の扉をくぐった。
「こんにちは……初めまして、灰羽のアレルヤです」
「灰羽とな?ロックオンかな」
「いえ、僕はアレルヤ……」
「マリナは元気かのお、刹那に相変らず困らされてるのかね」
店の中には老婆が一人いるだけだった。
たくさんの木箱で壁は埋め尽くされ、そこには様々な種類の薬草が入っていた。
どうやらここが薬屋らしいが、店主の老婆もいまいち会話が噛み合わない。
「ええっと……ソラン、どうすれば?」
「えっと、えっと、ニンジンとヨモギ草と、あといいものください!」
「やっぱりこの薬が一番みたいだねえ……そうかい、早くマリナを安心させてあげたいねえ……」
目をぐるぐる回しながらソランは早口で言った。
どうやら本当にこの店が苦手らしい。
会話は噛み合わない老婆だったが、店の奥から孫娘が出てくる。
ごめんなさいね、うちのおばあちゃん耳が遠くて。と孫娘は言いながら、ソランの言った薬草を沢山ある木箱から選び老婆に渡す。
ごりごりと石の上で煎じられた薬を孫娘は包装し、ソランに手渡してくれた。

なんとかおつかいを終えて帰路に着く。
またソランは近道をしようとしているのか、大通りから外れて行った。
「ところでソラン、このお薬ってどんなものなんだい?」
「しらない、にぃも、マリナものんでた」
マリナ。
先程薬屋で聞いた名前だ。
ホームの玄関には住んでいる灰羽たちの名札の他に使っていない名札も下がっていたが、そこにもそんな名前の名札はなかった筈だ。
という事は、マリナは灰羽の人ではないのだろうか。
「ねえ、そのマリナさんってどこの人?」
「…………こっち」
アレルヤの問い掛けに、ソランはさらに道を外れる。
暫く歩くうちにホームへと近づいて行くが、方角は微妙に逸れて行った。
ホームからそれほど離れていない小さな丘に、枯れ柳が一本立っている。
その枯れ柳の丘を、ソランは駆け上って行った。
ふと、枯れ柳の下でソランは立ち止まる。
その近くには一枚の石碑があった。
「…………これ、お墓?」
アレルヤの問いにこくりとソランは無言で頷く。
人口的に形を整えられ文字が刻まれているそれは表面だけを地表に出していた。
長い間誰も訪れていないのだろう。土埃や枯葉が被さり、一見しただけではそこに墓碑があるだなんて誰にも分からないだろう。
「だれの?」
「マリナ」
マリナ、という人は故人であった。