「舞台裏の仲間たち」 43~44
「雄二君は、すでに『家』持ちですか。
すごいですね、
僕よりも若いというのに。」
冷蔵庫から取り出してきたコーヒー缶を受け取りながら
順平が雄二に語りかけます。
「うちの工場のやり繰りも大変ですが、
我が家の家計は、実は大変です。
家を買ったとたんに、子供まで出来てしまい
嬉しい半面、厳しい現実が待っています。
今のところは社長が奔走をして、なんとか回っていますが
現状は火の車です。
まぁ、このあたりが個人経営の厳しいところです。
順平さんの会社のように、
成型工場とセットで経営がされていれば
相乗効果などもあるようですが、
まったく金型屋は、資金がかかりすぎます・・・・」
明るい窓際の方へ歩き、テーブルの上に置かれた図面をかたずけてから
『どうぞ』と、雄二が手招きをします。
そう言えば、今日は社長の姿が見えません。
「社長は、今日も金策で走り回っています。
働き過ぎと言えばそれまでですが、
これだけ最新鋭の機械を設備すると、さすがに過剰といえます。
通常の仕事量ではまかないきれないために、
最近は、弱電関係との取引も増えました。
まぁ・・・・このところ、特に
貧乏暇なし状態です」
そういえばこの工場自体も、
市内から転出をしてきて、新しく建て替えられたばかりです。
工場を新築したばかりだというのに、さらに相次いで
自動化のできる最新鋭機械の導入に力を入れ始めています。
『あそこの社長は遣り手だから』と言う評判と共に、過剰設備による
経営悪化の心配なども同時に囁かれています。
しかしこの時代、高精度のプラスチック製品の需要が高まりを
みせてきたために、金型業界では、今まで以上の高精度の加工技術を持つ
機械と、人材の確保が必須課題になってきました。
「俺たちはいくら働いても、
所詮は、機械メ―カーに奉仕するだけだ。
考えてみろよ。
一昔前の金型なら、手動の機械に手加工でも形は造れた。
ところが今の時代は、見た目が勝負の時代だ。
シンプルでいいと思うものまで、
見た目を考えてやたらと外観やデザインを凝りたがる。
金型も、結局は、複雑で手間暇がかかるものばかりが
求められるようになった。
そのために、億を越える設備投資が必要だ。
従業員が4~5人の町工場に、1億円の借金だ、
この先に待っているのは、おそらく・・・熾烈な生き残りのための競争だ。
それが解っていても、高い機械を設備して
メーカーから仕事を大量に受注する必要がある。
なんだか、自分で自分の首を絞めているような気もするよ。
機械は疲れないだろうが、
生身の人間には限界があるからな、
あんたも、働き過ぎには気をつけろよ。」
いつだったか、業界の顔合わせを兼ねた宴席で
此処の社長が、酔いに任せて、そんな愚痴をこぼしていたのを
順平が思い出しています。
作品名:「舞台裏の仲間たち」 43~44 作家名:落合順平