フェル・アルム刻記
「そうね……おそらくあなたが考えているとおりの存在なのよ。伝承の中にしかいないと考えていた、そんな存在が本当にいる、ということに混乱するでしょうけどね。――フェル・アルムに戻って、あなたが再び目覚めた時、ここでの出来事は夢であったかのように漠然としているでしょう。頭の中に抽象的なイメージがわいても、それを口から語れない。全てが鮮明になるのは、私との接点が明確になってから。……そう、次に会う時にね――」
ルードは純白の中、手を伸ばした。マルディリーンをつかまえようとするかのように。それが無駄であると分かっていながら。
すでに彼の躰は消え失せ、精神のみがそこにあった。だがそれもまた、この神秘的な世界から消え失せようとしている。
――そして、空虚。