四月馬鹿 ~April fool's day~
最初に時空がこう言った。
「私に歪みはありません。過去も未来も現在も、真っ向正しい存在です」
突然体が軽くなり、遥かな虚空へ放たれる。有象無象は空を舞い、月はあっちへ地球はこちら。物と物とは袂を分かち、勝手気ままに動き出す。もう質量など関係ない。てんでばらばら屁の河童。ここぞとばかりに太陽が、銀河の支配をするりと抜ける。
それにつられて勤勉光子。我慢できずに言い放つ。
「ずっと走るのもう飽きた。僕はこれからずっしりと、腰を落ち着け休みます」
突然目の前真っ暗に。右も左も分からない。どちらを見ても真っ暗闇。ラジオの音が消失し、世界は闇に包まれる。物音しない静かな宙で、ようやく落ち着く箒星。もう騒がしい光球に、邪魔をされずに安眠できる。
その一方で、曖昧Ψ(プサイ)。心を正すと見栄を切る。
「今日を境にこの俺は、賭け事なんか止めてやる! もうサイコロは振らないぞ!」
突然体が分解し、原子核へと舞い戻る。電子の雲が凝集し、小さな姿をさらけ出す。黙っちゃいない大きな陽子、いい機会だと捕らえにかかる。哀れ極小電子雲、強欲陽子に食べられて、電荷を失い中性に。
じっと見ていたグルーオン。ひどくこっそり便乗狙う。
「それなら俺はもう休む。仲介役などもう嫌だ。あとは勝手にやってくれ」
突然原子がばらばらに。カラーと香りを撒き散らし、クォークスープへ巻き返る。そうこの姿は懐かしい、生まれたときのあの姿。幼馴染の六人が、久方ぶりに一所に会し、古き良き日を語り合う。
最後に来たのはエントロピー。待ってましたと大演説。
「それでは私は減りましょう。もう悲しみはありません。みんな一緒になりましょう」
突然宇宙が収束し、ただ一点へと復古する。四つの力が合流し、我を忘れて交じり合う。全てはここから始まった。熱くて小さな針の先。あれとこれとは不離不可分。元を正せば万物は、みんな親しい間柄。
一日だけの大集合。今日が終われば元通り。
そう、時間がまだ存在するならば……
四月馬鹿 完
作品名:四月馬鹿 ~April fool's day~ 作家名:じゃんだるむ