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殺人鬼

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「本日午前五時三十分ごろ、○○市でナイフでめった刺しにされた女性の遺体が発見されました。死後数時間が経過している模様です。目撃証言は今のところなく、捜査は難航しています。捜査当局は半年ほど前から始まった連続殺人の一件と見て捜査しているようです。では、次のニュースです――」
 商店街の電気屋の前をすれ違った時、ちょうどニュースで殺人のニュースが流れた。やれやれ、世間は物騒だね。連続殺人なんてさ。
 ま、犯人俺なんですけど。

 これで七人殺した。うーむ、考えてみると半年で七人って結構多いよな。でも、爆弾テロとかだと一瞬で数十人ぶっ殺したりするんだから、それに比べりゃ軽い軽い。
 ん?なんで殺人なんてやるかだって?
 命を奪うのが楽しいからかな。昔から虫を殺したり、人の家の犬を殺したりしてた。なんというか、興奮するんだよね。他人の生殺与奪を握ってるって感じがたまらない。
 そういうわけで、いつか人を殺してみたいと思ってた。どんどんその思いは大きくなっていって、ついにそれが限界を迎えたのが半年前だったというわけ。

 あれは楽しかったなぁ。虫とか犬とか殺したときとは全然違った。仕事帰りの男を脅して路地裏に連れ込んで……殺した。めった刺しにした。何回も何回も刺した。刺した。刺した。本当に楽しかった。興奮した。それでやめられなくなっちまった。
 すぐに誰か殺したくなった。でも、我慢した。あんまりすぐに殺しちゃうと足がついちまうかもしれないし。それに、我慢に我慢を重ねてからのほうが、絶対楽しい。
 最初は一週間が限界だった。でも、どんどん我慢できる期間は長くなって、最近じゃあ一か月ぐらいは殺さずに生活できる。

 夜飯の材料を買うために、スーパーにやってきた。今日は何にしようか。お、豚肉が安い。生姜焼きにしようかな。
 そんなことを思いながらスーパーをぶらぶらしてると、お高くとまってる感じの綺麗な女を見かけた。精悍な顔立ち。髪は短め。身長は結構高めだな。一七〇センチはある。
 見た瞬間、殺してみたくなった。姿形が残らないほどにしてやりたい。抑えられない。なぜだろう、不思議だ。ついさっきまでは昨日の殺人に満足してたのに。
 こんな気持ちになったのは初めてだ。今までは見た目とか男女とか何の関係もなく、ただただ殺すことがメインだったのに。今回はなんか違う。美しいから壊したい、みたいな?俺の中でも上手いこと整理ついてないけど、確実に今までとは違う。
 ま、そんなことはどうでもいい。ぶっ殺す。ただそれだけだ。もう殺し方は決まってる。いつも通りのめった刺し。いつもよりぐちゃぐちゃにしてやる。微塵も美しさなんて残らないようにしてやる。

 スーパーを出た女の後をつける。五十メートルほど離れてついていく。幸いなことに、女は振り返らなかった。おかげで、楽に尾行できた。
 どうやら女はマンション住まいのようだ。入っていく部屋を見届ける。視力はいいので、何号室かまで見えた。三〇一号室。今すぐにでも押し入ってぶっ殺してやりたいが、あいにくナイフは家だ。それに時間的にもまずい。これで最後の殺人なんてまっぴらごめんだからな。まだまだ殺し足りない。もっともっと殺すんだ俺は……
 さて、帰るか。たっぷり準備しなくっちゃ。

 帰宅。そういや夜飯の買い物忘れてた。あーあ、生姜焼き食うテンションだったのに。仕方ない。買い置きしてあるカップ麺食うか。
 ぴいいっ。お湯が沸いた。お湯はいつも薬缶で沸かす。あんまりお湯使わないから必要ないだろうってことでポットは買ってない。
 お湯を注いで三分。あっという間に出来上がり。お手軽だ。おいしいけれど、体に悪い。まさにジャンクフード。

 九十八円の飯を食べ終え、準備を始める。手袋とマスク、サングラス、黒いニット帽をかぶる。いつもの格好。この格好になると、いよいよ殺すぞって気分になる。ナイフを砥ぐ。ピッカピカだ。

 夜九時。
 この辺は田舎だから、この時間になると全くと言っていいほど人通りがなくなる。
 今日はいつもとやり方が違う。家に押し入って殺すなんて始めてだ、部屋に入っていくところを誰かに見られたりしたら即アウト。だから皆が寝静まるような時間にならないとまずいわけで。いつもはすれ違った人を殺すから、もうちょい早い時間だ。

 外はどうやら雨らしい。ざーっという音も聞こえる。結構ひどい雨のようだ。
傘を持って家を出る。

 誰もいない夜道を歩く。いつもと時間が違うせいか、警察もいないようだ。こりゃ楽だ。いつもはもう少し早い時間に殺してるから、張ってる警官の数も多い。そのせいで、最近はだいぶ殺しにくくなっている。今日の殺人がうまくいったら、この方法に変えてみるのもいいかもな。

 マンションに到着した。階段を上り、三階へ。
さて、いよいよだ。三〇一号室の前に立ち、ドアノブをひねる。

 目の前に、女が立っていた。一瞬驚いたが、すぐにナイフをポケットから取り出す。
 「初対面で悪いけど、死んでくれないか?」
 「面白いアプローチね!」
 女は笑いながらそう言った。なんだこの女。
 「俺を舐めてんのか?本気で言ってるんだぞ。これからお前を殺す」
 「いいわね、そういうの。あなたは私を犯したいわけじゃないのね」
 「そんなに自分が美人だと思ってんのか。むかつくね。なおさらぶっ殺したくなってきた」
 「なんか誤解させてしまったみたいね。ただ、今までこんな時間に来た人が皆私を犯しに来た人だっただけ。何人も私を犯しに来たわ。えーと、十二人。でも、殺しに来たのはあなたが初めて。なんだかうれしいわ」
 何喜んでるんだこいつ。気持ち悪い。
 「でも、殺されるつもりはないのよね」
 女は左手に包丁を持っていて、それを俺の心臓に刺す。するりと俺の体に飲み込まれていく刃。
 えっ?なんでこうなった。おかしいだろ。殺すのは俺のはずだ。なんで俺が。なんでだよ……

 「案外あっけないのね。つまんないわ」
 女は、男の頭を切り落とし、皮膚を引きはがす。肉をえぐり、目をくり抜き、脳を引きずり出す。そして、骨だけ残してすべて食べてしまった。
 女の家にはこれで十三個の頭蓋骨。
作品名:殺人鬼 作家名:うろ