短編集 1
Track
(注※この作品はボーカロイドのオリジナル曲【Calc.】を参考に制作した作品です)
風に吹かれるように、雪が舞い落ちるように、雨が降ってくるように、この悲しみもどこかへ行ってしまえばいいのにと、空を眺めて何度思ったことだろう。たとえ定められていた出会いで、別れで、悲しみだとしても、足掻かないでいられるわけがなくて。どんなにみっともなくても、離れたくないと願ってしまったのだから放したくはなかったのに、現実はそう簡単にいかなくて、君はあっという間に僕の元から離れてしまった。
ふと気が付けば、君と歩いていたあの道を一人で歩いていた。その軌跡を辿っても過ぎた時間が戻ってくることはないとわかってはいるのに、どうしても認めたくないと、心が叫んでいる。ギッ…と、鈍く軋む頭の中で、セピアに褪せたその笑顔が浮かぶ。今はそうでなくても、あの時は少しくらい、君は幸せだったのかなって。
そうだったらいいな、という希望的観測も含めて。
この世界のどこかに万能の神様や運命の神様が本当にいるなら、歯車を取り替えてくれるように祈りたい。一本のレールに沿って歩き続けるという運命を定めと呼ぶなら、一度でもいい、反対に歩きたい。捻くれたっていい、強引に脱線して、新しい場所に足を伸ばしたい。
けれど、できない。
少し寒くなってきたこの季節。本物のレール沿いに歩いて行けば、思い出の海に辿り着くことができる。辿り着いたとして思い出すその記憶は、今の自分にとっては辛いものでしかないけれど。
「空が綺麗」
ぽつりと呟いた自分の声が思いの外掠れていて、驚いた。何日か涙を流して気付いたときには涸れて、ひどく喉が渇いていた。涙を流せば晴れた気持ちになると、誰かは言っていたけど、涙を流しても、黒い霞がずっと心に漂っているまま。嘘つきだな、と自嘲じみた言葉を心の中で呟いて、俯きながら歩き続ける。大小様々な石が、太陽の光を受けて鈍く光っている。
もし、今、楽になれるとしたらどんなことをすればいいんだろう。感情を消せば、楽になれる?命を絶てば、楽になれる?何も考えなければ、楽になれるのかな。
どれも無理だ。部屋の一つ一つに君の姿が浮かぶ。目を逸らしても、目を閉じても、暗闇で浮かぶのは必ず君の姿。君一色で生きてきたのに、いなくなってしまったら、どうやって生きていけというのだろうね。君を想い続けたことが、君を好きでいたことが、いけなかったのかな、って。
どうか、許して欲しい。愚かな自分を。
好きだった、といつか追憶の奥に閉じ込めなければいけない想い。大丈夫、いつか君を思い出にすることができる。だから、今だけでいい。
「君を好きだと、言わせてください」
――――――――――…Track END(20111218)
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