心の中の雨の音(詩集)
秋の夕暮れ
夕暮れ
夏の夕暮れは長く冬の夕暮れはつかの間
春の夕暮れもいいが秋の夕暮れは格別だ
恋人達は
夕陽が沈むとともに薄れ行く互いの顔を
再確認するように見つめて手を握り直す
明日もまた陽は昇ることを疑いもせずに
独りの男は
不本意な夕暮れがまた来てしまった事を
忘れてしまえとばかりに繁華街に向かう
運命の出会いの僅かな期待を秘めながら
独りの女は
やはり独りの女に電話をして食事をする
互いに相手の動向と男の存在を探りつつ
夕暮れなどはお構いなしに喋りつづける
年老いた男は
夕陽が沈むのを見てしまった後悔をする
人生が終わってしまう様な気になるから
男は気を取り直して酒を買い家路を急ぐ
高校生の運動部員が
今日最後のランニングで学校へ戻り行く
それを見届けるように夕陽が沈んでゆく
秋の夕暮れが様相を変えつつ過ぎてゆく
作品名:心の中の雨の音(詩集) 作家名:伊達梁川