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「舞台裏の仲間たち」 27~29

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 「順平君。
 あなた、自分で何を言っているのか、ちゃんと理解をしていますか?
 ベッドにくくりつけられて、全治一カ月が言い渡されている入院患者が
 私の2連休を利用して何処かへ出かけたいなんて・・・
 あり得ない話でしょう、そんなこと。
 第一その腰の状況では、
 トイレに歩いて行くだけでも精いっぱいでしょう。
 通常のように歩ける訳でもないというのに。
 あ、ちょっと待てょ・・・
 そうか、無理をしないのなら、
 とりあえず、
 少しくらいなら歩けるようになったわけね。」

 カーテンを後ろ手に締め切ったレイコが
常夜灯だけがついている順平のベッドへ、足音を忍ばせながら戻ってきます。


 「・・・順平君。
 君が一体何を考えているのか、レイコさんが当ててみょうか。」

 首が固定されたまま、身動きがまったく出来ない順平の顔に向かって
レイコの赤い唇が、ゆっくりと近寄ってきます。

 「安曇野へ行って、碌山の”女”が見たいと言うんでしょ。
 どう、図星だろう。」
 
 「怖いくらいに、当ってます。」

 「やっぱりねぇ・・・
 そうなのか。
 順平なら、企みそうなことだもの。
 まったく・・・
 他人のことになると、身動きすら満足に出来ない癖に
 妙にムキになるんだもの、あんたって人は。
 でもさ、順平の気持ちはわかるけど、こればっかりは少しばかり難題だよ。
 歩けるようなったとはいえ、リハビリの開始は来週からだし、
 外出はおろか外泊なんてのは、もってのほかだもの。
 でも明後日を逃したら、私にも当分のあいだ休みの予定はとれないし、
 思案のしどころだわね・・・
 う~ん、レイコもリンダも、困っちゃう~。」


 「おいおい、リンダはそっちに置いといて。
 お願いだから、真面目に考えてくれよ
 レイコ。」

 「順平は、もともとが無茶が服を着て歩いているような人だもの、
 そのくらいは考えるだろうと思っていたけれど・・・
 実際となると困ったなぁ。
 いざとなった時の事を考えると、医療の関係者とか、
 看護婦さんくらいが傍に居てくれないと、私だけでは手に負えないかもしれないし、
 難問ねぇ、困ったなぁ。
 なんとかしてはあげたいけれど・・・
 ねぇ、順平?。」


 「看護婦さんなら、居るだろう・・・」



 「あ、当事者の茜ちゃん!
 順平君、冴えてるわ、その手があるわよね。
 ・・・・
 どうせ、無茶苦茶な話だもの、
 いいわよ、先生と茜ちゃんには私が交渉をしてみる。
 行こうよ、順平。
 話を聞いた時から、機会があれば私も一度は
 碌山を見たいと思っていたの。
 車と車椅子が手配できればなんとかなりそうだわ。
 乗りかかった船だもの、
 何とかかするためには、たまの悪知恵も必要か。
 仕方ないな、
 レイコが、悪女を演じるか・・・」


 にっこり笑ったレイコが順平の顔先から離れると、
じゃあねと、小さく手を振ってから今度こそ本当に立ち去ろうとします。

 「レイコ、忘れ物。
 もうひとつの、あれ・・・」

 開けかけたカーテンをもう一度、静かに今度もしっかりと閉じたレイコが
また足音を忍ばせて、静かに順平の顔へと戻ってきました。

 「そうだっけ、
 そのために私、さっきは電気を消したのに。
 私もそのつもりで、い・た・の・に・ねぇ・・・
 ごめんね、順平。」
 


(30)へつづく