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ゆらのと

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第一部 六、


空には雲が重く垂れ込めていて、ひるまえだというのに薄暗い。
頬をなでる風はひどく冷たい。
もう冬なのだと桂は感じる。
そのうち初雪が降るだろう。
桂は茶室の近くに立っていた。
攘夷志士を陰ながら支援する豪商の別邸の一角にある茶室だ。
広大な屋敷である。
茶室だけでなく、庭には大きな池もあった。
その池の向こうに、桂を含めた攘夷志士たちが寝起きする母屋がある。もちろん、その母屋も立派な建物だ。
こんなふうに支援してくれる者がいることを、ありがたく思う。
昔から支援者には感謝していたが、今は特にありがたく感じる。
世間では、攘夷戦争は終わったと受け止められている。
それも、攘夷志士の惨敗、として。
幕府による攘夷志士の残党狩りも厳しい。
そんな状況下でも支援してくれるのだから、本当にありがたい。
ふと。
耳がかすかな足音を拾った。
そちらのほうに眼をやる。
竹藪の横の小路を、銀時が歩いていた。
眼が合ってもお互いなにも言わず、近くまできたとき、ようやく銀時が口を開いた。
「こんなとこでなにやってんだ、おめー」
「散歩していて、少し足を止めていただけだ」
「そーか」
会話はそれで途絶えた。
お互い、黙っていた。
喧嘩したわけではないが、最近、話が弾まなくなった。
こういう状況だから、どうしても気が重くなりがちで、疲れてもいた。
「……なァ」
銀時が沈黙を破った。
「これからどーすんだ」
先のことを問われた。
だから、答える。
「しばらく様子を見る」
「それで、状況によっては戦いをやめんのか」
「戦いをやめる?」
「ああ、場合によっては、普通の暮らしにもどるのかってことだ」
そんなことを聞かれるとは思ってもみなくて、一瞬、戸惑った。
「まさか、それはない」
「なんでまさかなんだ」
「俺は敗軍の将だ。責任をとらねばならん」
望んでなったわけではなく、いつのまにか一軍を率いる身となり、さらに、他の攘夷軍が壊滅していく中で勝ち続け、英雄と呼ばれるようにまでなった。
ただし、最後には負けたが。
それも大負けした。
単に負けた勝ったで済むことではなく、大切な命を多く失ってしまった。
「責任をとる?」
銀時が眉間にしわを寄せる。気に入らないことを言われたような厳しい表情だ。
「ああ、だが、腹を切るつもりはない。おまえに言われたからな」
昔、銀時とたったふたり、天人兵に取り囲まれ、もはやこれまでと思い武士らしく潔く腹を切ろうとしたとき、銀時に言われた。
美しく最後を飾りつける暇があるなら、最後まで美しく生きようじゃねーか。
その言葉は、胸に深く刻みこまれている。
「最後まで背負っていくということだ」
そう告げ、なんとなく銀時から離れる。
作品名:ゆらのと 作家名:hujio