トルムチルドレン
眼鏡をくいっとあげながら、また微笑んだ。
そのうち身体が少しずつ楽になり、痛みが抜けた。自由に動ける、そう思った時にはもう、力が入らなくなっていた。眠いような、身体が重いような、飲み過ぎた時のような感覚になった。
「先生、俺そろそろかもしれない」
山口医師は優しく微笑みながら頷き、「そうですか」と言う。
「先生、ありがとう。先生には感謝してる」
「その言葉が僕にとって一番のお給料なんです」
俺は力が入らない顔面に集中して、何とか口端に笑みを浮かべる事ができた。
「斉藤さん、ありがとうございました。良い経験です」
山口医師はにこやかに笑ったまま、俺の視界の中からすーっと消えて、見えなくなった。そこには薄暗い闇が広がるだけだった。