興味
私はお気に入りの傘をさし、いつもの道を歩いている。
地面は黒く、瑞々しい。
水溜まりをわざと揺らして歩く。
あめんぼうが方々に散る。
私は視線を戻す。
視線の先に、彼がいる。
彼とは雨の日だけ、この道で会う。
しかし、いつも無表情な会釈をするだけで、特に言葉は交わさなかった。
そして傘をさしているので、顔は見えない。
私は彼の顔を想像して歩く。
全てが私の理想通りならいいのに。
ふと、私は強い衝動に駆られた。
顔を見てみたい。
今日は髪が決まっているから、見られても恥ずかしくない。
青い傘を持つ、その白い手が近づいてくる。
私の胸は高鳴る。
「こんにちは」
雨音に負けないように、私はいつもより少し大きな声で言った。
そして彼の傘の中を覗き込んだ。
しかし、そこにはあるべきはずのものはなく、私の目には傘の模様だけが映った。
〈完〉