小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

座れない席

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「座らないで」
彼女はそう言い続けた。

「お願い、座らせて」
彼女の前に立っている友人がそう言い続けても、彼女は決して友人を座らせなかった。

私は終点で降りるので、このやりとりを見ていることにした。

彼女と乗客の間には、一人が座れるほどのスペースが空いているのだが、誰もそこに座らせなかった。

誰かが座ろうとすると、
「座らないでください」
と止めた。

友人のかばんも置かせなかった。
とにかく誰もそこに座らせなかった。

そしてついに友人が、
「もういい、座る」
と言い、そこに座った。

するとどうしたものか、友人は跳ね返り、地面に叩きつけられた。

「だから言ったのに」
彼女は言った。

すると突然、扉も開いていないのに風が顔をかすめた。
私は思わず周りを見回したが、席を立った者は誰もいなかった。

そして彼女は、誰もいない扉に向かって手を振っていた。

扉が開き、ぽつぽつと乗客が降りていった。
彼女は、ようやく友人を席に座らせた。

「何だったの?」
友人は言った。

「ねぇ、透明人間って信じる?」
彼女は言った。

私は寝たふりをして、彼女達の会話を聞いていた。

「透明人間?」
友人は言った。

「そう、透明人間。電車とかでさ、空いてるのに誰も座らない席とかあるでしょ。あそこって透明人間が座ってるんだって。それで寝てたら起こしてくれ――」

――点、終点。

寝たふりのつもりが、本当に寝てしまった。

私は誰かに起こされたような気がして、周りを見回したが、乗客は誰もいなかった。
駅員が歩いていないところを見ると、駅員でもないようだった。

誰に起こされたんだろう。
そう思いながら降りる準備をしていると、また顔に風がかすめた。

〈完〉
作品名:座れない席 作家名:藻(も)