時は動き出した
『さっき堺さんから連絡が来て、どうやらご葬儀は横浜で執り行うって言うからね。お母さんは行けそうに無いわ。恵は?』
「うん、ちょっと仕事の都合もあるし、急だから行けそうに無いかな」
『あらそう』
落胆の声が聞こえた。
私はいつも通り身仕度をして、仕事へ出かけた。
私には牧田昭二という夫がいる。私は牧田恵になったのだ。
それでも頭のどこかで忘れられない、堺真吾との有耶無耶な別れのシーンが、あの雪の白さが、昨日の事の様に思い起こされるのだ。だからこそ、葬儀に行く気にはなれなかった。独りになる彼に、手を差し出してしまいそうな自分が容易く想像できる。