行楽弁当
「姉ちゃん。今日のべんとー、何?」
朝一番で台所にやって来た弟の雄李(ゆうり)が、そう訊ねてくる。お弁当を作るのは、家の手伝いと言うより私の趣味で。ましてや、今日は弟が秋の校外学習。自然と私の腕にも力が入る。
「今日は秋の味覚オンリーや」
「栗ご飯? え、おこわ? ……あと他はー」
昨日の夜に炊飯器で準備したのは、旬の栗のおこわ。おかずは、鮭のケチャップ照り焼きと、ひき肉入りの厚焼き卵。それと、ブロッコリーのおかか和えと薩摩芋の金平。デザートは、ウサギ型に切った林檎と柿のクリームチーズサンド。
その色とりどりのお弁当を覗き込んで、弟は瞳を輝かせた。
「うまそー」
「そらおおきに。でも朝食はこっちゃ(こっち)」
つまみ食いしかねない弟をさっさと座らせて、母さんが作ってくれた、きのこチキンサンドイッチと牛乳を差し出した。
八時十分。
彼が出かける前に、皆にも分けてあげなさいと果物は少し多めに持たせる。雄李は重くなるじゃんと文句を言っていたけど、それも鍛錬のうちと誤魔化した。
十二時三十分。
……そんな朝の出来事を、いざ、自分のお弁当を開けた時に思い出す。
(二年生も、今頃お昼か)
秋の晴れ渡った空を見上げながら、私も自分のお弁当に箸を伸ばした。
四時五十分。
「ただいまぁ」
おかえりなさいと、ちょうど玄関前を通った私に、もう一台詞。
「姉ちゃん、べんとーまじ美味かった! ありがと」
意外と素直なのよね、こういうところは。
「お友達にも果物わけた?」
「うん。つか、言わなくても寄ってきたぜ。やるとも言ってないのに」
どことなくウンザリしたような雄李の言葉に、苦笑を浮かべてしまう。だって弟のお昼風景が、何となく想像がついてしまったものだから。
「だけどよ、」
「何(なん)?」
「姉ちゃんて……ときどきホント母さんみたいだよな」
呆れたような、感嘆したような、複雑そうな玉の顔。私は首を傾げた。
「どして?」
「だってよー……普通、いくら知り合いの後輩だからってわざわざ遠足の弁当の世話までしねぇって」
「……そういうもん?」
「うん。ま、別に悪いことじゃねぇけど! それに立花(たちばな)達も言ってたぜ」
「なんて?」
“明歌(私の名前である)先輩って、あたし達のお母さんみたいだねっ!”
「……ってさ」
その言葉に、私は苦笑するしかなかった。
そんな、秋の味覚を堪能中の一コマ。