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novelistID. 29058
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初詣

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初詣

   



 テレビ画面は「行く年来る年」の中継画像を映している。雪の降りしきる中を、寺の参道を身をかがめて村人たちが歩いている。除夜の鐘が重々しく響くのに重ね、アナウンサーがこの一年の世相について語っている。
私はそろそろ初夢でも見ようかと思っていた。ところが、二千十三年になった瞬間に携帯電話が着信した。私は誰からだろうと思いながら、
「はい。荘司です」
 と云った。
「あけましておめでとうございます。高原です。旧年中はお世話になりました。本年もよろしくお願い致します」
 それは、聞いたことのない名前の相手からの電話だった。
「……」
「もしもし、荘司さんですよね?」
 聞き覚えのないその声の感じは、若い女性である。
「荘司ですが、あなたは?」
「ゆきです」
「……ゆき、さんですか?」
「高原ゆきです。荘司さんのおかげで……」
「待ってください。私はあなたを存じておりません」
「そんな……だってこの前約束したじゃないですか」
「なにをですか?どんな約束でした?」
「元旦に、一緒に初詣に行く約束です」
 元旦は暇なので、久しぶりに初詣に行こうかと、私は急遽そう思った。いや、そうではない。相手が若い女性だから、そう思ったのだった。
「どこへ?初詣というと……川崎大師ですか?」
「いいえ、出雲大社ですよ」
 少し苛立っているらしいその声は、しかし魅力的だった。
「出雲大社だと、随分遠いんですが……」
「わたしの家からは車で二十分です」
「向こうに住んでいる方ですか。そうなると、いよいよ接点が希薄になりましたね」
「大晦日のうちにこちらへいらっしゃるって伺っていましたよ」
「私がですか?」
「はい」
「島根県でしたっけ?」
「はい」
「そうですか、でも、忘れていたんですね。ごめんなさい。明後日、じゃなくて明日ではどうでしょうか」
 私はその見知らぬ若い女性にどうしても会いたくなっていた。そして、どうしても一緒に、初詣に行きたいと思っていた。そのあとはどこへ行くことになるのだろうか、などとも思い、わくわくした。
「二日でも初詣に行くことはできますけど……」
「そうですよ。何も元旦に初詣に行かなくたっていいんです。二日のほうがすいているだろうし……じゃあ、待ち合わせはどこにしましょうか」
「そうですねぇ……平田町に郷土料理の『おかや』という美味しいお店があるんです。わたしはそこの落ち着いた雰囲気が気に入ってるんです。予約を入れておきましょうか?」
「そうですか。それはありがたい。で、何時にそこへ行けばいいんですか?」
「お正月で、書き入れ時ですからね、お昼でもだいじょうぶだと思いますよ」
「わかりました。二日のお昼に、平田町の郷土料理『おかや』ですね。駅からタクシーで行くことにしましょう。御手数ですが、確認をして頂いて、もしもお昼がダメならあとでまた連絡をお願いしますよ。初詣が夕方以降、というのもいいでしょうしね」
「そうですよね。でも、また荘司さんにお会いできるなんて、夢のようだわ」
 高原ゆきは嬉しくてたまらないといった声でそう云った。
「そうですね。二千十三年の初夢というわけですね」
「え?!今年は二千十四年でしょ?」
「いや、二千十四年は来年です」
「あらぁ、そうですか!一年早く電話してしまったということですね。わたしって、そそっかしいところがあって、ごめんなさい。じゃあ、来年の一月二日に初詣、ということですね」
「……」
 

              了
作品名:初詣 作家名:マナーモード