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存在感

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廊下の突きあたりまで来て、背後に何かを感じた。
怖いという感情などないままに彼女は振り返った。

 その廊下の片側は、多目的室の同じ扉が一定間隔で並んでいる。
違いといえば、クレヨンか色鉛筆の箱の中のように並んでいる色違いの取っ手くらいだろう。
 もう片側の壁は、天井近くに明かり取り程度の嵌め殺しの窓があるだけで外部を見ることはできない。

 彼女は、その廊下に人の姿を見つけ、軽く会釈をした。
(あれ?)
自分に良く似た容姿に一瞬不思議を感じた。が、夕暮れ近い廊下にはまだ明かりはついていない。
(あ、鏡か)
何の納得なのかそう判断し、向き直った。
(え?馬鹿な……)
疲れているとはいえ、判断の間違いに間髪入れず気付いた。
 こうなると、次に振り返るのは、恐怖との戦いだ。
確かめたい思いを引き戻す意識が働き、状況を整理したがる思考は言葉を探す。
(あんなところに鏡なんてないはず。いや、あると仮定しよう。とすれば、あの人の後ろに映るのは、私の目の前のエレベータの扉でなくてはならない。そう、廊下の奥が透けて見えるなんてありえない。しかも今、奥から二番目の黄色の取っ手の扉から出てきて此処まで歩いてきたのよ。そう、鏡なんて反対の突きあたりになんてなかった。だから仮定は成立しない。ならば……何なの?)
彼女の背中は、ぞわぞわとしながらも近づいてくる気配がないかセンサが働く。
 彼女は、なかなか上がってこないエレベータの箱に苛つきを感じ始めた。
だが、その理由も彼女にはすぐに理解ができた。
(ボタン押してなかった……)
 彼女の指がボタンに伸びるが、押すのを躊躇った。
あの後ろの何かを突き止めたいという衝動が芽生えてしまったのだ。
気持ちの何処かで、その芽を摘み取ろうとしている。(止めておけ!)天からの囁きが   耳元を掠める。
作品名:存在感 作家名:甜茶