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遊泳許可区

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学校の屋上には誰もいなかった。昼休みになると男子が馬鹿騒ぎしているけれど、放課後になると好んで屋上まで上ってくる奴はいない。
 屋上の柵に寄りかかって、空をぼんやりと見上げる。雲がゆっくりと移動しているのが見えた。大きく息を吐いて、目を閉じる。風は少し肌寒いくらいで、冬服になった制服にはちょうど良かった。
 時々、自分は何故こんなところにいるんだろうと、考えることがある。毎日学校にきて、皆と同じ服を着て、皆そろって机にむかって、興味も無い教師の話をきかせされる。自分はここで、一体何をしたいのか?
 より強い風が吹いた気がして、目を開いた。
 ブオオオオオオ――――……。
 ボオオオオオ――――――――――………………。
 目を見開いた。巨大な生き物がいる。今、目の前に。
 その生き物が鯨だと気付くまでにしばらくかかった。フジツボがそこらじゅうにくっついていて、どこもかしこもでこぼこしているように感じた。汽笛のような声に、体中が震えた。あまりにも巨大で、そして何故か、飛んでいた。
 驚きすぎて微動だにしなかった。ゆっくりと、あの雲と同じくらいの速さで巨大な鯨は空中を泳いでいた。
 飛行機よりも大きいだろう鯨を眺めて、思いついた。どうにかして、この鯨に乗れないだろうか。一度鯨に乗ってしまえば、誰も行ったことのないような違う場所へ、連れて行ってくれそうだと思った。いつだって、どこかへ行ってしまいたかった。いつもなら、そんなことはできない。ただ今日は、こいつが現れた。
 少し場所をかえてから、柵の外に出た。足腰を震動させる低い音色を響かせてゆっくりと弧を描く背中に、ねらいをすませた。ふっと、これは自分の幻想ではないかと思った。でも、そんなことはあり得なかった。
 助走もつけずにとんだ。黒いような青いような背中を、ひたすら見つめて。
作品名:遊泳許可区 作家名:こたつ