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誰かの道の上

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私たちは、道を歩いている。
 誰かが言うには、私たちは暗闇の草原を歩いているらしい。そして歩いて踏みしめられたこの場所が、道になるようだ。それが、私たちの生きた証にあるという。
 では私たちは、何に向かって歩いているのだろう。何故、歩いているのだろう。
 本当にここが暗闇なのだとしたら、何故、私たちは迷いなくどこかへ向かって歩いているのだ。時と共に歩みを進める私たちは、立ち止まらない。足を踏みとどまらない。ひたすら、とにかく、歩いている。
 時の空間の中で生きる私たちにとって、歩みを止めることは、死ぬことと同じ意味を持つようだ。心だけ時を止める人もいるが、それでも体は歩みを止めず、時間の経過を私たちに運んでくる。
 どこに向かって歩いているのかは、きっと誰にも分からない。未来の自分にでもきかないと、きっと分からない。でも、きっと今、自分がどこを歩いているのかは、分かるはずだ。
 自分が何者か、君は言えるだろうか。答えられるはずなのなら、君はその手にランプを持っているはずだ。そのランプの灯りで、自分の立っている場所が、ぼんやりと見えるはずだ。そのランプは最初、君のお母さんからもらったはずだ。覚えているかい。
 私たちは、色々な人たちに会う度に、ランプの火を少しずつもらっている。火は燃えるものがあれば消えないから、誰かにあげても、もらっても大丈夫。誰から火をもらう度、その火は明るくなっていく。周囲が、よく見えるようになっていく。
 足元が明るくなって、私たちは気付く。自分が道を、たどっていたことに。
 私たちが歩いた後は、その道がより大きな道になっていることだろう、その道を歩いたのは、私たちだけじゃない。
 そうでなければどうやって、草に足をとられずに、暗闇の中つまずかずに、歩き続けることができるだろうか。
 私たちは皆、同じように時を経て、同じような思いを抱いて、何度も混ざって、同じ世界を生きている。それなのに、どうして、同じ道を歩かないなんてことがあるだろうか。
 私たちは、見たことも触れたこともない誰かに、手にひかれて歩いている。
 それはきっと、涙が出るほど嬉しくて、とっても素敵なこと。
作品名:誰かの道の上 作家名:こたつ