あるむらで
ある村に”それ”は現れました。
光り輝く”それ”を村の人々は”きぼう”と呼びました。
その村には、
村が滅亡の危機にさらされたとき、”きぼう”が降り立ち、我々をお救い下さるだろう。
という言い伝えがありました。
当時、村は日照りの影響で大規模な飢饉に見舞われていたものでしたから、みんなが藁にもすがる想いで”きぼう”の下に祈りにやってきました。
根拠はなくとも、村の危機に現れた神々しいそれは、”きぼう”、即ち彼らにとって神様以外の何者でもなかったのです。神様だと信じたかったのです。
しかし”きぼう”は神様ではありませんでした。
村がそのことに気付くのには長い時間がかかりました。そのころにはもう村には数人の人しか残っていませんでした。
ほとんどの人が死んでしまったり、どこかに消えてしまっていたのです。
それに比例して、”きぼう”は大きくなっていきました。誰もその変化には気付きませんでした。
食べるものが無くなってしまった人々は、人間を食べ始めました。「腕は一本あればいい」と、片方の腕を食べました。痛みで死んでしまう人もいました。そのとき死んでしまった人はすぐに食べてしまいました。ときにはお墓を掘り起こして、腐りかけた骨だけの死体を食べました。
土も食べました。草は随分と昔に全部無くなっていました。
鉄も試してみたのですが、固くて食べられませんでした。
そうしているうちにとうとう村には一人しかいなくなってしまいました。
最後の一人となってしまった彼は、ふとあの存在を思い出しました。
”きぼう”です。もう彼に選択のの余地はありませんでした。
随分と久し振りに見る”きぼう”は、前に見たときよりも何倍も大きくなっていました。
彼はよろよろと”きぼう”に近付き、倒れこみながら掴もうとしました。
光に包まれた彼は、”きぼう”と共に跡形もなく消えてしまいました。
こうして一つの村から人が消えました。
彼は、気が付くと空を飛んでいました。
下を見ると、村がありました。それは自分がすんでいた村でした。
それは懐かしい光景で、村にはまだ人がたくさんいました。
彼は嬉しくて泣きました。悲しくて、悔しくて泣きました。
知っている顔ばかりでいますぐ会いにいきたいと思いましたが、体が思うように動きません。
涙は次から次へと溢れてきて、落ちていきました。
しばらく泣いていると、彼はなにやら村が騒がしくなっていることに気が付きました。
どうやら久し振りの雨を喜んでいるようでした。
このとき彼は自分の使命に気付きました。
そして彼は村の”きぼう”として村に降り立ちました。