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嫉妬SS ver.啓祐(日日草に送られて)

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親愛なる親友様。
 明日、そちらへ向かいます。
 お茶とお菓子をご用意して、お出迎えください。

『ちょっと! なんか変な手紙が届いたんだけど?』
 電話の向こうで、昨日も一昨日も聞いた声が喚いた。驚かせることができたなら、とりあえず第一段階は白星だ。送った手紙の到着日も予定通り。明日のお昼には大阪に着く新幹線の切符も取れた。急に言われたって、明日は用事があるのに。そう言われるかもしれないとは思っていたけれど、由利ならその用事を断ってでも(文句は言われるだろうけれど)自分を迎えてくれるだろう。どうしても参加しなければいけない集まりならわからないけれど、友達とショッピングに行く程度なら確実に、先約よりも旧友を優先してくれる。そういう人だって、知っている。十六年もほぼ毎日一緒に過ごしたのにここ三年会っていなかった、大事な大事な幼馴染との再会。手紙のやり取りも電話のやり取りもかかさなかったけれど、会う会わないでは話が別だ。実際、由利が自分に会いたいと思ってくれているかどうかは、あまり関係がなかった。ただ自分が会いたくなったから、大学が夏休みに入ったタイミングで手紙を送った。たったそれだけの話で。
「うん。駄目かな」
『駄目っていうか……』
 困ったような、歯切れの悪い言い方が受話器から漏れる。
「滝本君?」
 由利に会いたくなった理由も、自分でちゃんとわかっていた。最近頻繁に彼女の手紙や電話に登場するようになった、この名前。由利と同じ大学の同じ学部で、何故か授業も多く被っていて更に同じサークル。彼女の証言によれば性格も似ているとか。
『いや別に滝本君がどうってわけじゃなくて、ただサークルがね』
「おばさん、家にいるんでしょ? 待つよ」
 そう? ごめんね。苦笑混じりに返ってきた由利の声は三年前とは比べ物にならないくらい大人びていて――。

「あら、あらあら啓ちゃん、よく来たねえ」
 そして大阪。おばさんに断って居間で待たせてもらうことにした。相変わらずおっとりした大柄のおばさんは、あれこれと手作りのお菓子を出してくれる。昔からそうだった。由利の家でおやつを食べ、外で走り回って遊んで、うちにゲームをしに来る。夏と秋には最後に日日草を眺めて、それで解散。
 おばさんの作るチョコムースの味は昔と何一つ変わらない。きっとこれからも。だけど、由利はそうではないのだろう。恐らく自分も。変わっていって変わっていって、それがいい方向にも悪い方向にも、広がる。形を変える。あの頃とは違う。あの頃には戻れない。そして変わっていく由利の隣にいるのは、今、自分ではなくて。
 あの日由利に渡した、ラミネート加工した日日草を思い出した。我ながら恥ずかしいことを言った気もする。ちゃんと取っておいてくれてはいるのだろうか。平たく潰して乾燥させた、昔眺めた日日草とは全く別のものだけれど。懐かしい匂いだけでも閉じ込めておけるなら。そう願って押し花にした。変わってもいいから忘れないでほしい。そう思って彼女に渡した。最近の手紙や電話が『こないだ話した滝本君がね』で始まることに不安を覚えた。日日草はバラバラに、小さくなって風に舞っていってしまったのではないかと、怖くなって、それで。
 ……はるばるここまで来てしまった。
「ただいまー! 啓祐? 来てるの?」
 三年ぶりの――機械を通していない由利の声が、玄関先から聞こえた。靴を脱ぐ音。軋む廊下の音。懐かしい。ここはあの由利の家ではないけれど。
「おかえり由利。久しぶり」
 ついさっきまで暗い思考が頭の中をぐるぐるとしていたのに、自然と笑みが零れた。確かに変わった。だけど変わっていない。一目見てそうわかった。見た目で変わったといえばむしろこちらの方かもしれない、と由利の絶句している顔を見て思う。
「……更に伸びた?」
「176、かな」
 自慢げに言ってやると、由利は黙ってずかずかと、絶対見上げてやるもんかと言わんばかりに高めの椅子に座った。そういうところが、好きだったりする。
 そう。好きだったりする。自分は、この親友のことが。
「ちょっと変わったね」
「そう? まあ髪伸ばしてるからかな」
「うん。綺麗になった」
 馬鹿じゃないの、とだけ言って、真っ赤になって、俯く。続いてもう一度馬鹿、と細い声を漏らす。その一つ一つの動作が、ああ、由利が本当に目の前にいるなあ、と実感されて、「滝本君」
 自分はその名を口にした。
「へ?」
「付き合ってるの?」
「まさか」
「そっか」
「うん。――なんで?」
 本当に意味がわかっていなさそうな由利の表情。何で、って。教えてなんか、やらないよ。とりあえず、会えてよかったと、面と向かって聞けてよかったと、そう思う。
「日日草、まだ持ってる?」
「……当たり前でしょ」
 話題を勝手に変えられたのが不満だったのか、返ってきた声はどこか拗ねているようで。
「今度は自分で手入れするよ。また蒔いてみたんだ、種」
 だから、たまには戻ってきなよ。そう言うと由利は嬉しそうに笑った。日日草のためでもいい、今度は由利に、会いに来たと言ってもらおう。滝本君とやらは知らない、自分と由利だけの、理由で。