嫉妬SS ver.佐々木(ごんだっ!)
自分でも情けないと思うほどひっくり返った声が漏れた。
昨日、というか三年生初日に俺が微熱で学校を休み、今日登校したら勝手にアルバム係に任命されていて、それはいいとしても夕未が体育委員になっていて、体育委員というからには男子の方は権田(ナポレオン)だろうと思っていたのに違う奴だった――というのがこの台詞の説明。
体育の後の男子更衣室、権田(ナポレオン)と権田君(秀才)からこの話を聞かされて心底驚いた――というのがこの状況の説明。
「俺部活忙しいしねー。さすがに、引退するまでは休めないわ」
「そうなのか……で、男子の体育委員って、誰?」
「……確か、虹、だ。窓際の、前から三列目の」
権田君(秀才)はさすがだ。周りに無関心なように見えて、ちゃんと俺が名前を聞いてもわからないことに気を遣ってくれている。
――って、問題はそこではなくて!
「窓際の三列目って! あの超絶ナルシストじゃねえかっ!」
クラスメイトの悪口を言ってしまった、と気付いたときには叫んでいた。更衣室、もう俺達三人しか残っていなくてよかった。少なくとも本人は放課後いっつもすぐに女子を連れてどこかへ行ってしまうから、聞かれた可能性はまずないだろう。
それにしてもよりによって権田君(ナルシスト)が夕未のペアだなんて。昨日早速初回の集まりがあったらしい。きっと無駄に近くに座ってきて『あ、ごめんね手が触れちゃった』とかやられたに違いない。夕未は優しいから文句言えなくて、一緒に放課後作業したりとか! それで一緒に帰るとか! ぐああ! 耐えられない!
「ぷっ。何佐々木ー、虹に嫉妬してんの? あ、夕未ちゃんが心配? 青いねー」
権田(ナポレオン)が冷やかしてくる。お前だって権田さん(金髪)が他の男とつるんでたら拗ねるだろ! って言ったら、そんな時期はとっくに通り過ぎたよと返された。権田君(秀才)に至っては、「藍が誰といようと、藍がその人に対して何も思っていないのなら関係ない」とかなんとか、しかも、真顔で。こいつら俺よりちょっと早く付き合い始めたからって達観しやがって。くそ。
「でもさ、うちの体育委員って、保健委員兼ねてるだろ。当番とか」
「あるねー。放課後の保健室で二人っきりとか、いい響きだねー」
権田(ナポレオン)の言い方がいちいちわざとらしい。それにいいように踊らされてる俺も俺だけれども、でも、ざわつきが収まらない。
「……どうしよう」
権田君(ナルシスト)がただのナルシストであるなら問題はない。だが彼は伊達にナルシストやってない。イケメンだ。ひい。
「――佐々木」
動揺しまくっている俺にかけられたのは、冷水のような権田君(秀才)の低い声だった。思わずビクッとなる。
「お前……夕未を、信じていないのか」
そりゃあ……当たり前だろ、信じてる。信じてるさ。
「なら、問題が、あるのか?」
「……」
だよ、なあ……。
俺は数回の深呼吸を繰り返した。ニヤニヤと笑っている権田(ナポレオン)を睨みつける。冷静になれば、なんてことない……はずだ。
「なんか……取り乱して悪かったな」
「いやいや、面白かったからもっとやっていいんだよー? ブフッ」
めっちゃうぜえ。権田さん(金髪)に殺されればいいのに。――そうか。そうだ、権田さん(金髪)がいる限り、彼女が認めた男以外が夕未に触れるなんてこと有り得ないじゃないか。って、なんか今すごく恥ずかしいこと言った、俺。
「……下校を共にしたいなら、委員会が終わるまで待てばいい」
権田君(秀才)の言うことももっともだ。なにも、一人でぐあーっと叫びながら帰る必要はない。ありがとう二人とも(一人は問題を吹っかけてくることしかしていない気がするが)。つまりは、持つべきものは友だな!
……権田でさえなければ、もっとよかった。お決まりの台詞を心の中で呟いて、俺は穿きかけだった制服のズボンを穿いた。
作品名:嫉妬SS ver.佐々木(ごんだっ!) 作家名:大文藝帝國