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嫉妬SS ver.流留(ごんだっ!)

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「……今の」
「え?」
 脈絡もなく振られた言葉に、前を歩いていた藍が振り返った。それでもすぐに何の話をしているのか理解したらしく、数秒後には「うん」と声が返る。
「……同級生。……中学校の、頃の」
「……そう、か」
 人の事を言えた立場ではないが、藍はあまり友人の多いタイプではない。男子はおろか、女子とでさえ明や夕未以外と話しているところを殆ど見ない。そんな藍が、駅で見たことのない男と話していたのだから、自分が驚いた理由には十分だろう。驚き。その言葉に少ししっくりこないざらつきを抱きながら、会話を続ける。
「……仲が、よかったんだな」
「……そう、かな。……そう、見えた……?」
 これは、藍の困っているときの声だ。気付いて、遠くに投げていた視線を向ける。返すことのできる言葉は、ない。先程から胸にこびりついているよくわからない感情のせいか。
「……」
「……そっか」
 何故か、次に聞こえた声は心なしか嬉しそうだった。
「……?」
「あのね……久しぶりに……会ったから、今度、お茶どうって……言われたの」
「……」
 ますます、声が喉から先へ出て行かなくなる。
「……あ、あのでも、私、ちゃんと……断った、から……」
 そう言って、藍が笑う。すると不思議にも、胸に渦巻いていた妙な不快感が、音もなく消えていく。
「……そうか」
 声が出た。自分でも驚くほどに――安堵の声だ。
 しばらく歩く。ただ無言で、先程の苦しい無言ではなくて。
「流留が……妬いてくれて……嬉しい」
「……妬いた?」
 いがいがと胸に引っかかる感覚を思い出した。――これが嫉妬だというのなら、一生味わいたくもない。そう思っていたところへ、
「……もし……お茶、断らなかったら……どうして、た……?」
 こちらの様子を窺うような藍の声。――ああ。
「あまり……」
 たったこれだけで息も詰まりそうになるほど自分は単純だったのかと、思い知らされる。
 口に広がる苦い思いをあまり長い間味わっていられるほど、僕は大人ではないらしい。悔しい、けれど、それは事実だ。
「えっ……?」
「……あまり僕を……感情的にさせないでくれ……」
 返事はなかった。お互い気恥ずかしくなって、橙色の無言が沈んでいく太陽を見送った。