悩ましき恋路
今日はいつもより、空気が湿気ている。
駿介は、背伸びをひとつして窓を開けた。もう朝晩はかなり冷え込む季節だ。慌てて窓を閉めた。
「あー、朝飯どうすっかなー」
呟きながら、小さな一人暮らしサイズの冷蔵庫を開ける。昨日缶ビールを飲み干してしまったから、今日の帰りはコンビニに寄らなければならないだろう。スケジュール手帳を確認せずとも、今日ストレスが溜まりそうな予定があることは十二分に認識していた。
「……めんどくさ」
またしても、無意味な呟き。
「朝飯は、途中でコンビニ寄りゃあいいか」
引き出しを開ける。そこに靴下は無い。洗濯物は溜まる一方だ。駿介は舌打ちをひとつして財布を探した。玄関の靴脱ぎのところにあるはずだった。
「靴下も、コンビニで買うか……あそこ、売ってたっけ」
彼は、コンビニが無いと生きていけないだろう。
扉の開閉音が、いつもより重たい。そしてそれに重ねるように、缶ビール同士がぶつかりあう音。
「やっぱ、女遊びはツケが回ってきた時大変だなー」
罪なひとりごと。
「あ、ツマミ買うの忘れた。……あー、靴下買ったから金ねーんじゃん」
自業自得だ。洗濯をすれば済む話だ。
駿介は洗濯機のスイッチを押した。干すのがダリィんだよ、と文句をいった。
また、空といってもいい冷蔵庫を開ける。舌打ちをして、閉める。電気を無駄に食う、冷蔵庫。
「浮気しねえ男なんていねえっつの」
プシュウと景気がいいとは言えない気の抜けた音が響いた。駿介は少し顔を顰め、ポケットからiPodを取り出した。イヤホンをつけ、聴く。駿介はいつもそれを持ち歩いていた。また一口、ビールを飲む。
彼は何気なくベットの下を見ると、心底怯えた顔をした。
わたしは今日も、彼の耳元で囁いている或いは鳴り響いている音色が、恋しくてたまらない。