裏表一体
これだけ聞いてもどれだけ魔王がマイペースで、変人でんでもって恐ろしく強いということがおわかりだろう。
更に恐ろしいことに、代々魔王に成るものには「変人」「マイペース」が必ず装備されているのだ。
もはや、呪いと言っても過言ではない。
「…全部口に出てるよ、澪」
「はっ!す、すいません、つい。」
「気にしてないからいいけど…精神病院ならいい所しってるよ?知り合いがいっぱいそこにいるからね」
「何で精神病院…?気にしてないって絶対嘘ですよね!?」
それに、と続けようとしたが、それは勇魔の手によって防がれる。
「モゴッ!?」
「しー、ほらあそこ見て」
澪の口を押えている手とは逆の手で指をさす。
そこには…鳥と獣の混じったような、歪な姿形をした生物、通称「魔物」がいた。
「モ?フグモゴ?」
正直、魔物は魔界で見まくっている。それこそ雑草並みに。
だから勇魔があの魔物を指さす意味がよく理解できない。
意味が分からず首を傾げる澪は三秒程考えた後、ある結論に辿り着いた。
ま、まさか…!
そんな澪の考えを裏付けるように勇魔がぽつりと言葉を零す。
「今お腹減ってるし…この際何でもいいや。」
「モゴモゴォ――!!(やっぱりーー!!)」
魔物は普通食べるものでは無い。
人間で言えばクレヨンを齧るようなものだ。つまり糞不味い。
だが、勇魔は本気だった。
それは先ほどのつぶやきや既に臨戦態勢に入っていることから窺える。
勇魔は音をたてずに獲物に近づき、いつのまにか持っていたサバイバルナイフで喉を裂いた。
そして魔物は断末魔すらあげることが出来ずに息絶える。
辺りに散った赤い血が妙に、現実から酷く遠い物に見えた。
―――――1匹の生き物のあまりにもあっさりとした最後だった。
そんな光景を眺めながら勇魔は「これ、どうやって調理しようか…うーん、丸焼き?」と真剣に悩んでいた。
…どう調理しようがクレヨン並みの味がする魔物が旨くなる筈がないことを勇魔は考えていない。
真剣に頭を抱えて悩みだし、ついにはしゃがみこんでまで考え始めた勇魔の肩を澪が軽く叩く。
「ゆ、勇魔さんっ!下に…っ!」
「ん?下…下がどうかした?」
「その…魔物の下に…えっとその」
勇魔は『魔物の下?』と思いつつ、息絶えたそれを持ち上げ横に倒す。…重い。
すると、そこには―――――――――
「………人?」
「…人、です…よね?」
魔物の下には血まみれになった人がいた。
正確に言えば、うつ伏せになって押しつぶされた人が、だ。…いつの間に。
「…安らかに眠れ、アーメン」
パンパン、と手を合わせてしゃがみ込んだ勇魔が呟く。
「アーメン…とか言ってる場合じゃないですよ!?ヤバいです!死んじゃってます!きゅ、救急車ぁあああ!!!」
救急車とその言葉が一際大きく山に響き、反響し「救急車ぁあああ」と三度ほど返ってきた。
もしかすると来るかもしれないな、なんて馬鹿な考えを真面目に考えそうになるぐらいには大きな声であった。
「森の中までは救急車は来ないよ…あ、ヘリは来るのかな…?アーメン」
「アーメンにはまったんですか!?ではなくて、霊柩車ぁあああ!!!」
その声もまた山に響き反響しその場へと返ってくる。