裏表一体
「ちょっと待てぇええ!!、なに堂々と家出宣言してんだ!このバカ!
「兄に向かってバカは酷いよ、誠」
そんな会話をしている場所は絢爛豪華とは程遠い…寧ろ牢屋のような薄暗い会議室。
しかも会議の真っ最中だった。
幹部の皆は、あまりに唐突で堂々とした家出宣言に石化していた。
中には砂になった人、ではなく魔族の方もいる。
石化した幹部の横で尚、兄弟の言い合いは続いていた。
「ってことで、魔王任せるわ」
「任せるなっ!そんな面倒いもの!」
「俺も嫌だ!」
「お前が兄なんだから、魔王を続けるべきだろ!?」
兄弟で魔王の座のたらい回しという名の言い合いが。
このことを全世界の勇者が知ったらどう思うだろうか?
おそらく近くで石になった幹部のようになるだろう。
もしくは喜ぶのかもしれない。
いったい何故ここまで二人が魔王の座に就くのを嫌がるのか、と言うと…
魔王はものすごい面倒&デンジャーな職業だからだ。
常に死が付きまとう。
手下のした悪事が全て魔王の責任にされ、その処理に追われたり…。
手下のしたことなのに勇者に諸悪の根元だと勘違いされたりして…命を狙われる。
確かに下の者の責任は上にあるだろう。
…が、
いくらなんでも酷すぎるないか?俺は何もやってないんだぞ?
そんな悩みに頭を抱えて、ノイローゼにかかる魔王続出。
そりゃ誰もやりたくなくなるだろう。
魔王という職業が人気だったのは、もはや遠い昔の話だ。
そこんとこを最近の勇者にはわかって欲しい。
魔王に変わりなどいないのだ。
「だ、か、ら!世界征服まで後ちょっとだけだからいいじゃないか!!」
「ちょっとだけなら兄貴がや…りゃあ…。」
弟、誠は奥の扉を見て目を見開いていた。
しかも、顔色は真っ青を通り越して真っ白である。
ついでに石化が解けた幹部たちは思わず大丈夫か、と言いたくなるほど口を開いていた。
もはやムンクだ。
そんな彼らは皆、現魔王…勇魔の後ろに向いている。
…後ろにはいったい、どんな悪魔や鬼がいるんだ…。
そんなやつらのトップが恐る恐る、後ろにある扉の方に目線を移動させた。
そこには…
―――――元魔王(父)が降臨していた。
厳つい角と厳つい髭のダブルで怖い元魔王…だけなら彼らはこんなにも驚かなかっただろう。
普段からそれらは装備されている。
だが、問題は元魔王の現在の装備だ。
元魔王は全身ピクニック色に染め上げられていた。(頭に花やクローバーの冠付き)
リュックやサンドイッチの入った篭を持った、顔は相変わらず厳つい元魔王。
正直きも…いやシュールだ。
今なら勇者が幾人来ようと精神攻撃で倒すことが出来る。
確信を持ってそう言える気がした。
…味方も(大)ダメージを受けるのが難点だったが。
そんな元魔王に怯むことなく歩みよる勇者…いや現魔王がいた。
勇魔はシュール過ぎる我が父親を見上げて、
「父さん、俺家出するよ」
とド直球、ドストレートをぶん投げた。
そんな息子の家出宣言に目付きを鋭くさせる。
いつもの二倍の威圧感だが、見た目がアレな為に半減した。
つまり、いつもと同じだ。
「…ピクニックはどうするつもりだ」
「帰ったら行くよ」
「そうか…ならいい」
息子のストレートをホームランで打ち返した父親。
ズテンッと後ろで誰かが転けた。
きっと幹部たちか弟だろう。
彼らはきっとこれから先も苦労する。
この城にいる限り永遠に。