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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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逆転の街

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【 逆転の街 】
 
  昭和を思わせる街並みに電球の明かりが灯る。
  中年以上の日本人なら懐かしい風景だが、この街には違和感があった。
  何よりその大きさが桁違いで、そこを往来する住民もまた異様だったのだ。
 
 「さあさあ、今日は若人のもも肉が安いよ」
  甲高い声を張り上げたのは身の丈4m、頭部に口ばしとトサカがついた鳥鬼だった。
 「あら、100キロ200円とは安いわね」
  鳥鬼の呼び声に応じたのは、身の丈5m、体重40トンはあろうかと思われる豚鬼だった。
  豚鬼は鼻をヒクヒクさせながら、大きなエプロンからこれまた巨大な財布を取り出した。
 「今日は新鮮なところを300キロばかりもらおうかしら」
 
 
 「なんだよ、この街は?」
  俺は思わず声を上げた。
 「シッ、やつらに聞かれる!」
  俺の言葉を遮ったのは、先ほど知り合ったばかりのシロタと名乗る男だ。
 
  突然の目まいに襲われた後、気が付くとこんなおかしな街にたどりついていた。
  何もかもが異様なスケールで作られた風景に戸惑っていると、背後からシロタが「迷ってるね。俺に付いて来な」と声をかけてくれたのだ。
 「ここは何千とある地獄世界の一つ、逆転の街。ここでは人間はやつらの食料ってわけさ」
 シロタは簡単に説明してくれた。
 
 「地獄? すると俺は死んだのか? 他の人間達はどこにいる?」
  シロタはそんな俺の質問に答えず、道を急がせた。
 
  突然、料亭らしき建物の中からものすごい悲鳴が聞こえた。
 「鬼どもの料亭だ。誰かが料理されているのさ」
  シロタが恐ろしげに声を潜めて言った。
 
 「青プッペ、早く来なちゃい」
  今度は俺達の側で声がしたので慌ててゴミ箱の脇に隠れると、
  小さな(といっても3mはある)鬼の子が体中に青いタトゥーのある屈強な男を引きずっていた。
  俺はとんでもない所に来てしまったようだ。
 
 「こんな世界に安全な場所なんてあるのか?」
  俺はいささか絶望的になりながらシロタに尋ねると、「脱出口がある。今からお前をそこに案内してやろうというのさ」と、うれしい答えが帰って来た。
 
  彼はこの世界に迷い込んだ人間達を脱出させるボランティアのようだった。
 
  だが、脱出口の先には何がある? 
  もしかしたら別の地獄が待ち受けているだけじゃないのか?
  そんな不安も頭をよぎったが、今は脱出先にかけてみる他なさそうだった。
 
 「ギャー!!」
  料亭から断末魔の悲鳴と、鬼達のうれしそうな笑い声が聞こえて来た。
 「夜になるとやつらはますます凶暴になる。脱出口へ急ごう」
  シロタが俺を急き立てた。
 
 
  その脱出口とは街外れにあるどぶ川(といっても1級河川位の大きさ)の河川敷にあった。
  古い倉庫の脇に、背の高い草で覆われた小さなドアがあり、そこに乱暴な字で「だっしゅつこう」と書かれた看板がかかっていた。
 
  露骨に怪しげな扉を開けて恐る恐る中を覗くと、人がやっと通れるほどの狭く薄暗い通路が続いている。
  俺はしばし躊躇ったが、シロタは何度も行き来していると見えて、俺を置いてその中に飛び込んで行った。
 「なあ、あんた生前は犬が好きだったかい? それとも猫が好きだったかい?」
  歩きながらシロタが唐突にそんな質問をした。
 
  それと現在の状況と何の関係がある?
  怪訝に思ったが、それはシロタが俺を落ち着かせようとしているのだと考えて、
 
①・・・「俺は犬を飼っていたから、犬が好きだよ」と答えた。
②・・・「俺は猫を飼っていたから、猫が好きだよ」と答えた。
③・・・「俺は残念ながら、犬も猫も大嫌いなんだ」と答えた。

≪ それぞれの答えの個所に進んで下さい(^▽^)/ ≫

  〈 犬が好きと答えた方 〉

 俺はシロタに「犬は飼っていたから、大好きだよ」と答えた。
 シロタは「そうか」とニンマリ笑うと、「その先が別の世界への入り口だ。ここから先は一人で行ってくれ」と言って、錆びた鉄扉を指さした。

 ドアの中は真っ暗であちこちから犬の鳴き声がした。
 その中から聞きなれた鳴き声がするので、その記憶をたどっていると突然目まいが襲いかかった。

「ああ気が付いた。ここにAED(心臓蘇生機)があって本当に良かったよ」
 額から汗を流しながらAEDを手に、にっこり笑ったのは行きつけの獣医師だった。

 なんでも俺は待合室で急に倒れたそうだ。
 ものすごい鳴き声で獣医師を呼んだのはキャリーバッグの中のシロだった。
 シロは起き上った俺を見てうれしそうに鳴いた。


    〈 猫が好きと答えた方 〉
  
 俺はシロタに「猫は飼っていたから、大好きだよ」と答えた。
 シロタは「そうか」とニンマリ笑うと、「その先が別の世界への入り口だ。ここから先は一人で行ってくれ」と言って、錆びた鉄扉を指さした。

 ドアの中は真っ暗であちこちから猫の鳴き声がした。
 その中から聞きなれた鳴き声がするので、その記憶をたどっていると突然目まいが襲いかかった。

 目が覚めると、そこはいつもの俺の部屋。
 あまりの息苦しさに起き上がろうとするとズシンと重い。
 見るとお腹の上にシロ達、ブタ猫が3匹も乗っかって眠っていた。
 どうやら悪夢の原因はこいつらのようだった。

「コラー、自分の猫ベッドで眠りなさい」
 俺は猫達をお腹の上から追っ払いながら、ホッと胸をなでおろした。


    〈 犬も猫も嫌いと答えた方 〉

「残念ながら俺は犬も猫も昔から大嫌いなんだ」
 シロタは「そうか」とニンマリ笑うと、「その先が別の世界への入り口だ。先に行ってくれ」と言って錆びた鉄扉を開け、俺を押しこんだ。

 ドアの中は真っ暗で鼻をつく異臭がした。
 ふいに電気が付けられると、そこは巨大な倉庫の中で、周りには皮をむかれた人間の死体が何百とぶら下がっている。
 異臭の原因は血の匂いだったのだ。

「シロタ、俺を騙したのか!」
 そう叫んで振り返ると、シロタは身の丈4mはある犬鬼になっていて、その脇には7mもある牛鬼が立っていた。
「シロよでかした」
 牛鬼が倉庫中に響き渡る声でシロタを褒めた。

「こいつは生きがいいようだから、料亭に売るとするか」
 牛鬼は俺を捕まえて荒縄で縛った。


   ( おしまい )


作品名:逆転の街 作家名:おやまのポンポコリン