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I have

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 わたしは自殺を考えております。いえ、自殺をする予定でおります。ですからこうして、遺言のようなものを記しているのでございます。
 とんでもない過ちをしでかしてしまいました。おとうさま、おかあさま、その他今までこの瑠璃子めの人生に関わって下すった全ての方々、本当にありがとうございました。
 わたしはひとを殺してしまいました。
 なぜこのようなことになってしまったのか、わたし自信も整理しかねているところはございますが、ひとつひとつ、したためてゆきます。
 わたしには恋人がおりました。高校時代おとうさまは、どこの馬の骨とも知れん奴は認めないというようなことをおっしゃっていたように記憶しております。そのことを思い出すと、なんだか鼻の奥がツンと致します。そして恐らくおとうさまは、わたしの恋人を連れて実家へ参るようなことがあれば、迷いなく恋人を殴り飛ばしたことでしょう。先ほどツンとした鼻の奥が、ジンジンと痛くなってきました。筆を落としてしまいそうです。
 ……その恋人のことを、わたしは愛しておりました。心の底よりでございます。
 ですが彼は、世に言う異常性癖とやらの持ち主でした。カニバリズム――食人行為に快感を覚えるらしいのです。わたしにはさっぱり理解できませんでしたが、愛おしそうにわたしの爪を食む彼を見るのは決していやではありませんでした。
 ある日のことです。彼が突然詫び出したのです。ごめんなさい、ごめんなさいと、何度も、何度も。彼が言うには、「ほんとうの自分を理解してくれたのはきみだけだ」と。けれど、「ほんとうの自分に共感してくれる恋人を見つけたのだ」と。そして一言、すまない、と。
 わたしは頭がぐらぐらするのをぼんやりと感じておりました。
 確かにわたしは食人行為に興奮など致しません。けれど、彼のことを愛する気持ちに嘘は無かったのです。どうして、わたしはカニバリズム嗜好を持って生れられなかったのだろうと、どこかずれているのかもしれないことを考えておりました。
 恋人から別れ話を切り出される――ドラマかなにかのような話ですが、実際にこんな話はめったにないのでしょう。いや、わたしが知らないだけなのでしょうか。
 なにはともあれ、そういう経緯で恋人を殺してしまいました。
 ぼんやりと、相手の女性を殺せばよかっただとか、目の前でわたしが死んでやって、わたしの死体を食べさせて、彼の身体にわたしを刻みこめば良かったとか、そういったことを暫し後悔して、なにかがおかしいと気付きましたが、そもそもおかしかったのは彼の性癖なのでしょう。
 わたしは最期くらい彼に近づきたいと、手にした包丁の血を拭い――ああ、彼を殺したのは台所の包丁でした――そっと彼の指先に刃を当てました。ネエ、冷たい? だとか、呼びかけた記憶がなくもありません。おそらく彼の指先にはまだ温もりが残っていたことでしょう。
 そういえば、指先って骨が無いらしいですね。ですから、爪が無いと大変だとか。本当かどうかはわかりません。確認するすべがありません。我が家のフライパンをフリーマーケットか何かで売ったら、大変面白そうですね。
 そこから先を、したためる必要は無いでしょう。
作品名:I have 作家名:長谷川