わて犯人
第一話 魅惑のおケツ
―バタッ! どこかで音がした。
「お父さん!!」
お父さんは息を引き取った。
―ドテッ! どこかで音がした。
「お母さん!!!」
お母さんは息を引き取った。
そこで県警の最終兵器と呼ばれる一人の警部が立ち上がった。
「はぁ・・・また殺人事件か。日本は世界でも有数の平和な国じゃなかったのかねぇ。」
トムが愚痴をこぼしながら殺人現場で捜査をしていると、ドアが開き小太りの男がやってきた。
「ケイティ警部、お疲れ様です。」
「トムか。悪いな、殺しの捜査ばかりに駆り出して。どれ、被害者は・・・うっ、これはひどいな。」
ケイティの視線の先には無残にも頭を真っ二つに割られ、横たわっている夫婦の死体があった。
「警部、どうやらこのハンマーが凶器のようです。」
「ふむ。ちょっと見せちくり」
「はい」
ハンマーにはべっとりと血がこびりついていた。
「・・・ふむ」
「被害者は無職の山田山(やまださん)さんとその妻、ピーコさんです。金品などには全く手を付けられた形跡がないのでどうやら怨恨による殺人のようですね。何より厄介なのはこの部屋が密室だということです。」
「へえ」
「発見者はこの館の執事のサイバー・ダイソンさんです。ダイソンさんが買い出しから戻ってきたとき、部屋には鍵がかかっていました。この部屋の鍵は2つあり、ひとつは山さん、もうひとつはダイソンさんが持っています。ダイソンさんが鍵を開けて部屋の中に入ったとき、夫妻は既に息絶えており、死体のそばにもうひとつの鍵が転がっていました。」
「ほう」
「ダイソンさんにはアリバイがあります。買い出し先のスーパーの店員がダイソンさんの顔をしっかり覚えていますし、その際のレシートもダイソンさんは所持しています。」
「よし、この事件は迷宮入りだな。もう無理。俺にはさっぱりわからん」。
ケイティは諦めた。
「そんなぁ、この事件はどうするんですか?」
「案ずるな若者よ。あいつらがきっとなんとかしてくれる。」
「あいつら・・・?」
「そうか、お前は会うの初めてか。伝説の名探偵様だよ。」
「俺達を呼んだか?」
ガッシャーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
刹那、窓ガラスが粉々に砕け散った。
ケイティ達が反射的に瞑った瞼を開けると、
そこには黒く巨大なバイクがまるで太陽の日差しを吸い込むように存在していた。
「よーう、久しぶりだなケイティ。」
バイクの後部座席に乗っていた男がにっと笑いながら口を開いた。
「もう来たのか、早いなマイン。」
マインと呼ばれたその男は、色鮮やかな服装に身を包んだ、甘いフェイスのいかにもプレイボーイと言った感じの中年だ。
「貴様の残念な脳ではこの事件は解決できないと推測し、近くで待機していた。」
もう一人の大男が応えた。感情を持たないかのような淡泊で冷たい声だ。
バイクの色と同じく全ての光を吸い込むかのような黒のサングラスをかけている。
サングラスのせいかはわからないが表情が全く読み取れない。
「ははっ!相変わらずだなジョン。」
「ところでケイティ、そっちのイケメンくんは誰だい?」
「彼はアリモトム警部補だ。まだ若いがなかなか頭がキレるぞ。それにすげえいいケツしてる。」
「どうもアリモトムです。今回の事件の捜査に加わらせてもらっています。」
「そうか、よろしくなトム。俺の名はマイン、今井マインだ。んで、こっちのムスっとしてるのは左近ジョンだ。おい、ジョン。挨拶くらいしろ。」
「さっさと失せろ、ベイビー」
「ごめんねー。こいつターミネーターの大ファンでさ、いつもモノマネばっかしてんだよ。」
「ははは、こちらこそよろしくお願いします」
「さて、本題に入るぞケイティ。俺達に協力を依頼するってことは相応の契約金は用意してあるんだろうな?」
マインが悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。
「ああ、もちろんだ。キャッシュで五億ある。」
「ご、五億だって!?」
それが予想していた額のはるか上をいってしまったのでトムは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
「彼らにはそれだけの金を出す価値があるってことだ。」
「・・・わかりました。」
ケイティのいつになく真面目な表情にトムは気圧されていた。
その瞳には何かある種の信念めいたものが見えた。
「オッケー、契約成立だな。さあて、調査開始っと。始めるぞ、ジョン」
「了解した。探索モードに移行する。」
「―本当に信頼できるんですかあの人達。そんなすごそうな人には見えないんですが。」
「フヒヒまあ見ていればわかるさ。天才って言葉は奴らのためにあるようなもんだ。」
「はあ、わかりました。とりあえずケツ触るのやめてください。」
「あーコーヒー飲みてぇな。ジョン、近くに自販機かコンビニあったか?」
「周囲10キロ圏内には存在しない。」
「だよなぁ。いくら豪邸とはいえこんな山奥じゃ不便で仕方ないぜ。ジョン、とりあえず冷蔵庫の中を捜査するぞ。」
「理解した。」
「いやいや真面目にやって下さいよ」
「いいんだよトム。彼らの好きにさせておけ。」
「だからお前はケツ触ってんじゃねえよ!」
「はっはっは」
「お、あったあった缶コーヒー。ジョン、お前も飲むか?」
「いらないわ、今欲しいのはビールよ。」
「はっ、そりゃ言えてる・・・ん?これは・・・冷蔵庫の奥に何かあるぞ!」
「何!?」
トムが確認すると、確かに冷蔵庫の奥に氷漬けになった何かがあった。
冷蔵庫の中はものであふれかえっていて
よく探さなければこの物体を見つけることはできなかっただろう。
「なんだこりゃあ?とりあえず解凍してみるか。おいジョン熱湯を頼む。」
「理解した。」
ジョボボボボボボボボボボボボボ・・・
3分後
「おやおや、とんでもないもんを見つけちまったようだなこりゃ。」
「これは・・・!人間!?ひどい!まだ子どもじゃないか!生きたまま氷漬けにされていたんだ!手足ももげてしまっている!」
トムは怒りを露わにしていた。かつてないほどの巨悪への怒りが
温厚なトムに激しい憎悪の念をたぎらせた。
「落ち着くんだトム。刑事は常に冷静でなければ・・・」
しかし、そう言いかけたケイティも次の瞬間言葉を失ったのだった。
なぜなら
「どうしたの・・・おじちゃんたち・・・?」
その子どもが目を開けて突然喋り出したからだ。