魔王と少年; 出会い
風がなびき、少年の金色の髪を揺らす。背丈は百七十少しと、オーストリア人としては小柄である。
少年の名はカールといった。幼く見えるが、これでも今秋から大学生になった十八歳である。
「見つけたぞ、少年よ」
カールの前に突然男が一人現れた。
「あ、あの……」
カールは突然のことに口ごもっていた。何にせよその光景は現実では到底ありえないようなものだったからだ。
男は漆黒の髪をしていた。長さは肩くらいで、男性としては長めだ。瞳の色はあまり見かけることのないすみれ色をしていた。
上半身には金属製の鎧のようなものを身に着けて、マントを羽織っていた。手には青白く光る剣のようなものがあった。
何かの映画の撮影なのだろうか、とカールは思った。それならば、役者と間違えてカールに声をかけたという可能性もある。
だが、それだけでは説明できないものがあった。男の頭部から山羊のような角が二本生えていた。さらに、頭の上には王冠らしきものを載せていた。
よく見ると耳も通常ではありえないほど尖っていた。それはまるでファンタジー作品に出てくるエルフの耳のようだった。
極めつけは彼の臀部から生えているらしい尻尾のようなものが動いていた。最新のテクノロジーならばこのようなこともできるのかもしれないとカールは自分に言い聞かせていたが、無駄だった。
「お前を愛している。お前のその美しい姿は私を魅了する」
彼はいきなり同性であり、しかも一切面識のなかったカールに告白してきた。
「あの、あなたは一体」
普通なら叫ぶか悲鳴をあげるかしそうなところであったが、カールはこの時なぜか比較的落ち着いていられた。
もしかすると、男の姿があまりにも現実離れしているのがそうさせていたのかもしれない。
「いずれ分かることだ、少年よ」
男がそう言うと、カールは青白く光る剣から発せられたまばゆい光に包まれてそのまま気を失った。
「ええと、ここは……」
外からは小鳥の声や車が走る音が聞こえてくる。窓からは眩い朝日が差し込んできていた。
カールは、自室のベッドの中にいた。
「ああ、夢だったのか。それにしても変な夢だったなあ」
カールは一回ベッドの上で伸びをすると、そこから降りて着替えを始める。
「今日も天気がいいなあ」
カールはこの時、今日もいつものように平穏な一日になると思っていた。
だが、この日こそが彼の運命を大きく変えることになるとは、彼もまだ知らなかった――。
作品名:魔王と少年; 出会い 作家名:François