朝日に落ちる箒星
「大丈夫なの?」
智樹は布団の中で一定の距離を保ったまま、私を見下ろしている。
「大丈夫かどうかは分からないけど、このままじゃ、ダメだと思って」
それは、色々な意味でダメだと思ったからなのだ。女としてダメだと思うし、対・星野さんとしてもダメだと思ったし。色々ダメだと思ったのだ。それがうまく伝えられる言葉がなくて、もどかしかった。
智樹は起こしていた半身を倒すと、私を抱き寄せた。そのまま長く長くキスをした。
「俺はこれだけでもいいんだよ?」
私の太腿に、彼のモノが当たっている事に気づいていて「嘘は言わない事」と言って彼の口を塞いだ。
彼に服を脱がせてもらい、彼は自分で服を脱ぎ、再度布団に入る。
肌と肌とが触れ合うと、こんなにも温かい物なのかと、何か深いとろりとした液体の中に引きずり込まれるような感覚に陥る。もう、戻れないかも知れない。
それから身体を弄られ、それは上半身から下半身へと移動するのだけれど、その時一瞬脳を貫く様な光を見たような気がした。一気に背中から頭の先へと冷たい物が駆け上った。
大きな手、太い指。
「早く挿れさせろよ、濡らせよ」
そう言って乱暴に入れられた、太い指。
「お父さんの、欲しいだろ」
性器の先で私の性器をいじり、そして滑り込ませる。
そんな光景がほんの一瞬で蘇り、吐き気がする。
「ごめん、ちょっと待って!」
智樹を突き放すと私は急いでトイレへ行き、夕飯に食べたパスタを盛大に嘔吐した。
下着だけ着けた智樹が「大丈夫か?」と追ってきた。下着を着けて来てくれて良かった。あんな物、やっぱり見たくなかった。一度嘔吐すると、もう吐き気はおさまった。「大丈夫」
私は全裸のまま智樹に支えられるようにして布団に寝転がった。
「部屋着、寒いから着ちゃいな」
その辺に散らかった部屋着と下着を渡してくれた。
その優しさが今は酷く痛くて、自分が不甲斐ないという気持ちと一緒に、両目から涙となって溢れ出て来てしまった。暗くて見えないだろうと思っていたけれど、雰囲気で察した智樹は「もう、いいから。気にしないでいいから」と言って私に手を伸ばし、髪を撫でてくれた。
私はしゃくり上げながら部屋着を身に着け、座っている智樹に抱き付いた。
「ごめん、ね」
「いいから、ゆっくりいこうやって言ったろ」
何度も何度も頭を撫でてくれるその大きな手が凶器に思えてしまう私の記憶を、どうしたら書き換える事が出来るのだろうか。そんな事が可能なのだろうか。私はいつになったら智樹を満足させることができるんだろう。愛し合う事が出来るんだろう。
それが酷く遠い遠い事の様に思えて、手を伸ばしても全然届かない遠い事に思えて、情けなくてまた涙を流す。
「できなくたって、好きだから。君枝の事ちゃんと好きだから」
しばらくそうして抱かれていた。私の精一杯は、彼にきちんと届いているだろうか。