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女は、子供の頃に捕まえたケサランパサランを、母親の結婚指輪のケースに入れて大切にしていた。
おしろいを与えずとも、そのケサランパサランはケースを開ければいつも変らぬ姿で、周りの空気も干渉させながら白さを放っていた。
女の父親は知的障害者で、女が産まれて金の工面に困りヤクザを頼ったおかげで今では何処へ消えたかも分からない。恐らく臓器だけは知らない誰かの為に今日も働いているのだろう。
女の母親は父親が消えた事で働かざるを得なくなり、始めは山から街へ降りてホステス等で生計を立てていたが、いつの間にか村の男達を相手に体を売って女を育てた。
とは言え女の生活は貧しく、それが元で当然女は小さな頃から虐められた。
母親の評判も伴って、結果的に村八分となっていた。
女は次第に外へ出なくなった。
小学校へは上がったものの、10歳頃には学校に行かなくなった。
母親も次第に客が取れなくなり、女が学校へ行かなくなった頃街へ降りて戻らなくなった。
母親は親戚に頼み込んで、親戚は女の世話を最低限してやった。
週に一度、少しの金と食料を玄関先に置いて行った。
ただ面倒な事になるのを避ける為、それだけしかしなかった。
誰も女の姿を見なくなって7年程過ぎた。
親戚は相変わらず玄関に少しの金と食料を置き続けたが誰も姿を認めなかった。
その頃、女の母親が死んだ。
首を吊っての自殺だった。原因はあり過ぎて、本当の所は分からなかった。
親戚が女を葬儀に連れ出す為、7年ぶりに家の扉を開けた。
家の中は驚く程清潔に保たれていた。
中に進むとじっと座る女の姿があった。
真っ直ぐな黒髪と、陽に当たっていない病的な白さの肌が浮き立っていた。
残念な事に、女は美しかった。
葬儀に出る事で世間の目に触れる事となった女は注目された。
細さと白と黒のコントラスト、憂い以外何も感じさせない佇まいが母親の葬儀という場と相まって、男達は欲情した。
女は唯一の肉親、且つ村八分という事で独りで寝ずの番をする事となったが、それは当然男達が図った事であり、女が独りになって1時間も経たずして男達が部屋へ侵入して来た。
女は抵抗したものの、男数人に羽交い締めにされてはどうする事も出来ず、朝方まで輪姦された。
葬儀も終わり骨壷と遺影を持って女は家に戻ったが、男達はまた連れ立ってやってきて、それから毎晩女を犯した。
数日後には親戚ではない近所の村人までもやってきて犯すようになった。それは勿論、かつては女の母親の客だった男達だ。
そういった事が行われているという事実は一週間もすれば村全体に知れ渡る訳だが、村八分の家の女と関わっている事の恥、またその家を貶めるカタルシス等が作用して誰も止めもせず、当たり前のようにその後も女の辱めは続いた。
じきに女は誰との間なのか分からない子供を妊娠した。
しかし、妊娠しようがお構いなしに毎晩色々な男が入れ替わり立ち替わり犯しにやって来た。
その頃には村の警官までも犯しに来ていた。
希望などというものは無かった。何が希望なのか分からなかった。
女はある日、猛烈な陣痛と共に出産した。
女の子だった。
子供の泣き声が聴こえたのに気付いた村の子供達が女の家を覗いて、女が出産したのを村中で叫んで回った。爆笑と共に。
女はどうしていいのか分からなかったが、お湯で子供を洗いながら、自分が母親なんだと少しずつ自覚していった。
その夜は犯しにやって来た男達も、子供の泣き声の五月蠅さに嫌気が差し(或いは罪悪感から)、何もせずに帰って行った。
女は子供に護られていると思った。
だから、この子は自分が育ててやらなければと思った。
翌朝、目が覚めると子供の姿が無かった。
家中探しまわったが何処にも居なかった。
はっと玄関の戸を開けると、そこに子供は居た。
遺体となって。
遺体の口や鼻に、近所の洞窟に大量に居るカマドウマが詰め込まれていた。
よく見ると膣は勿論、目玉も刳り貫かれて、そこにもカマドウマがぎっちり詰め込まれていた。
女は家の裏口に穴を掘り、子供を埋葬した。
何が希望なのか、自分が何をしているのか、何も分からなかった。何も分かりたくなかった。
涙など出る筈もなかった。
女はドアノブに紐を括り付けた。
指輪のケースからケサランパサランを取り出し、それを口に含み、飲み込んだ。
イラマチオの後の、喉に絡み付く陰毛とよく似た感触がした。
ふざけてる。と小さく呟き、女は首を吊った。
女が目を開けると、家の天井が見えた。
仰向けに横たわる、自分の体が揺れていた。
男の側頭部や肩が視界に入った。
女が手を少し動かすと、指に何かがまとわりついた。
胃液にまみれたケサランパサランだった。
ふざけてる。と心の中で呟き、少し笑った。