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舞台裏の仲間たち 13~15

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 長いセリフは続きます。
真っ暗な舞台に倒れていたつうが、身体を起こしました。
ひざまずき、上半身を起こしながら右へ旋回するように身をよじり、
遥かな彼方へ向かって白い指を差しだしました。


 (碌山の”おんな”だ!。)




 思わず背筋を、電流が走りました。
つうを演じる時絵の息遣いと言葉だけが、会場を支配していきます。
静まり返った場内では、低く、ゆっくりと流れて行く、
ひとつひとつのつうのセリフだけが、余韻を引いて響きわたります。


 時絵がもっとも得意としてきた、あの「つう」が、
10年間の時をものともせずに、また再び舞い戻ってきました。
凄味をくわえ、さらに優雅な鶴の姿となって
すべての観客たちの頭上へと舞い降りてきました。
赤い唇から繰り出される言葉のひとつひとつが、
詰めかけたすべての観客たちの心と、心臓をわし掴みにしてしまいます。



 終演の幕が下りた瞬間に、満員の観客が一斉に立ち上がりました。
惜しみない拍手は時間とともに強くなりました。
どれほど経ってもその拍手は、止む気配を見せません。
私も夢中で、拍手を送り続けました。


 やがて、舞台の袖からは、
与ひょう姿のままの座長が現れました。
つづいて純白のおつう、時絵が登場すると、会場は
鳴り響く拍手から歓喜の大合唱へ変わってしまいました。
私も頬が紅潮し、目頭が熱くなってきました。



 産業文化会館・小ホールを埋め尽くした、観客500人余りは、
見事な時絵の「つう」に、完璧に酔いしれてしまいました。
長い拍手は、劇団員全員が舞台上に整列をしても
一向に、なりやむ気配をみせません。


 10年をかけた時絵が
磨きあげてきたものは、一体なんだったのでしょうか・・・
初々しい白鳥が、見事に「女」としての成長を遂げ
さらに円熟味を加え、活き活きとしてその舞台上へと舞い戻ってきました。
時絵と言う女は、哀しすぎる女の性(さが)まで見せてくれました。
完璧すぎる時絵の舞台ぶりに魅せられたあまり、
身震いをしている私が、そこにいました。


 拍手を送り続ける私の背骨に沿って、
ひやりとした汗が一筋だけ、流れ落ちていくのが
鮮明に解りました。

(15)へつづく