箱篋幽明
箱篋幽明
フラミンゴという綽名の友人がいて、何故そいつがフラミンゴというのかは、彼女が壁に寄りかかりながらも一本足で立つ癖があるからで、特に顔が桃色であるとかいう訳ではない。かくいう私は、えげつない程に甘いものが好きなので（コーヒー牛乳にガムシロップを入れる等）、甘党と呼ばれている。
彼女と私は大学からの仲で、一年生の時に彼女と私のたった二人しか受講者がいない儒学講義で一緒になったのが出会いだった。それはクーラーも入らない旧館のくたびれた狭い教室で、メタボリック気味のオジサンが、安眠を促すような優しい声で延々と孔子の話をするものだから、どうにも退屈でしょうがなかった。初めはそれぞれ離れて座っていたのだけれど、そのうち二人並んで講義を受けるようになっていた。この苦行のような時間を、一緒に、それもたった二人きりで過ごしているというところに親近感を感じたのだと思う。話してみると田舎が近かったこともあって、フラミンゴと私はすぐに意気投合した。
学期末になって初めての成績が出たとき、私たちは揃って教務課へ抗議しに行った。例の、儒学講義の単位が出ていないのである。ただ坦々と時間の流れるだけの苦行を、一年間も耐えた善良な学生になんて仕打ちをするのだと、フラミンゴは語気荒く教務課に詰め寄った。事務員は、困ったように眉を寄せ、便覧を捲りながら言った。「そんな授業、開講されていないですけど」。おかしい。私たちは毎週木曜にあの旧館の教室へ行き、全学生に配布された日程表に従って試験を受け、長期休み前には教務課を通して課題の通知が掲示板に貼り出されていたはず。それなのに。
次の木曜日、フラミンゴと私はあの教室に行ってみることにした。物覚えの悪い私たちは、あの先生の名前も、どの学科の所属でどこに研究室があるのかも覚えていなかった。立て付けの悪いがたがたのドアを開けると、薄日が射し込む午後四時の教室の中、逆光で何か(、、)は分からないが――肉屋に吊るされている豚のような――何かが、ぶらぶらと黒板灯の下にぶら下がっていた。
フラミンゴという綽名の友人がいて、何故そいつがフラミンゴというのかは、彼女が壁に寄りかかりながらも一本足で立つ癖があるからで、特に顔が桃色であるとかいう訳ではない。かくいう私は、えげつない程に甘いものが好きなので（コーヒー牛乳にガムシロップを入れる等）、甘党と呼ばれている。
彼女と私は大学からの仲で、一年生の時に彼女と私のたった二人しか受講者がいない儒学講義で一緒になったのが出会いだった。それはクーラーも入らない旧館のくたびれた狭い教室で、メタボリック気味のオジサンが、安眠を促すような優しい声で延々と孔子の話をするものだから、どうにも退屈でしょうがなかった。初めはそれぞれ離れて座っていたのだけれど、そのうち二人並んで講義を受けるようになっていた。この苦行のような時間を、一緒に、それもたった二人きりで過ごしているというところに親近感を感じたのだと思う。話してみると田舎が近かったこともあって、フラミンゴと私はすぐに意気投合した。
学期末になって初めての成績が出たとき、私たちは揃って教務課へ抗議しに行った。例の、儒学講義の単位が出ていないのである。ただ坦々と時間の流れるだけの苦行を、一年間も耐えた善良な学生になんて仕打ちをするのだと、フラミンゴは語気荒く教務課に詰め寄った。事務員は、困ったように眉を寄せ、便覧を捲りながら言った。「そんな授業、開講されていないですけど」。おかしい。私たちは毎週木曜にあの旧館の教室へ行き、全学生に配布された日程表に従って試験を受け、長期休み前には教務課を通して課題の通知が掲示板に貼り出されていたはず。それなのに。
次の木曜日、フラミンゴと私はあの教室に行ってみることにした。物覚えの悪い私たちは、あの先生の名前も、どの学科の所属でどこに研究室があるのかも覚えていなかった。立て付けの悪いがたがたのドアを開けると、薄日が射し込む午後四時の教室の中、逆光で何か(、、)は分からないが――肉屋に吊るされている豚のような――何かが、ぶらぶらと黒板灯の下にぶら下がっていた。