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君に届く距離だから

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“輪廻転生って知ってるか?”
“死んだ魂が、巡り巡って再び生まれ変わることよ”
“俺たちにはできないことだけど、お前らなら、きっと――”
 ある日、二人の部下が切り出した言葉。
 自分たちは無から生まれたけど、俺たちは元々レールの上の魂だと、囁く二人。
 「もう死ぬみたいに言わないでほしい」と、切り返せばよかったのだろう。だけど俺には、苦痛に耐えるような顔をした二人に、そんなことは言えなかった。

 あれは、もうずっと昔の、神様から恩恵と矛盾と一時の狭間を与えられた、そんな時の話だった。

◇◆◇◆

 1ヶ月ほど前に、俺は高校生になった。中学生の時は父親の転勤が相次ぎ、1年に最低2回は転校という、友達作りのへったくれもない生活を送っていた。そして高校進学時、やっと定住できると思いきや、すぐに転勤の話が持ち上がり、俺たち家族は引っ越しを余儀なくされた。
 だが義務教育とは違い、高校には単位というものがある。今まで同様転校を繰り返すわけにもいかない。そのことをくみ取った母親は、父親の反対を押し切って、俺と父親を離すことにした。
 最初は母親との二人暮らしの予定だったわけだが、経済面も含め何かと不具合が生じるというのと、父親がどうしても一人は嫌だと駄々をこねだしたこともあり……現在の、上京した兄の家に俺だけが転がり込むという状況に落ち着いた。
 「家の事は分担すること。俺の邪魔をしないこと。帰りが遅くなるなどの連絡は必ず入れること。家賃はアルバイトをするなりして割り勘にすること」。兄が提示した条件はこれだけだ。共同生活をするうえで必要最低限のルールである。
「……お前さ、せっかく転校するんなら口調、どうにかしたらどうだ?」
 俺の荷物の片づけを手伝いながら、兄は世間話をするような口調で問いかけてきた。
「口調……ああ、俺とかこういうののことか?」
「ああ。一応女子高生として、その話し方は目立つだろ」
「中学んときも目立ってたけどな」
 何を今更、と肩を竦めてみると「ま、そんなのお前らしくないけど」と返された。
 この話し方は、まだ年齢が二けたにもならないころにしだした。特に意味はなかったと思う。何かに影響されたわけでも、誰かに強制されたわけでもない。ただ、「なるべくしてなった」としか、言いようがなかった。
 当然のことだが、父親は驚きのあまり泡を吹いて気絶した。……少しどころか大げさな反応だったと思うが、その分母親と兄は冷静だった。特に兄は、「嫌にしっくりする」と妙に納得していたのを、今でも俺は覚えている。
「そういう兄貴も、どうだったんだよ、大学デビュー。その仏頂面も少しは改善させたか?」
「見りゃわかるだろ。通常運転、問題なし」
「むしろ問題しか感じないな」
 兄の軽口は、俺が相手のとき限定で聞くことができる。人見知り……というわけではない。一度兄に聞いてみたところ、「お前以外に軽口を叩く必要がないからな」と笑っていた。これはシスコンの兆しかもしれない。

◇◆◇◆

 本鈴と同時に、教室に促され、担任に紹介される。名前を名乗り、軽く挨拶と自己紹介。どこの学校でもやってきたことだ。
 座席は窓際の最後尾。転入すると、だいたい最初はここの席になる。
 言われるがままにその席に移動し、着席した。担任が再度、話し始めたのを確認してから、俺は隣の席を窺った。
 隣にいたのは、全体的に色素の薄い男子生徒だった。白みがかかった髪に、灰色の瞳。何より血色の薄い肌が、病弱な印象を感じさせる。だが、それでいて瞳には力があり、生命力がある、と感じた。
(…おかしな話だな。高校生なんだから、あるに決まっているのに)
 なぜ、そんなことを感じてしまったのだろう。
 すると、ジッと見ていたことに気付いたのか、その男子生徒がこちらに視線を向けた。
「どうかした?」
 どこか聞き覚えのある声音で問われ、一瞬戸惑ってしまう。
「あ……いや、なんでもない。…よろしく」
「ああ、よろしく」
 結局、軽く挨拶を交わすだけで終わってしまった。
(そういえば、こいつ、どこかで見たことあるな……)
 再度横目で見ながら、そう思った。あれは確か、ここ最近見る、夢の中。

“俺は家を継がなければいけない”
“俺は旅を続けなければいけない”
 遠い遠い、いつかの昔。
 誰かと交わした、こんな会話。
“…お互い、立場があるんだよな”
“一緒にいられる時間も、あまりない”
 彼は死ぬ。自分は生きる。
 そう遠くない未来に起こるべき出来事。
“……いつか、生まれ変わることができたなら”
 少し前に、部下が言った。
 「輪廻転生」と、いう言葉。
“また、一緒にいられたら、いいな”
“…………ああ”
 交わされたのは、小さな約束。
 書き留めるでもなく、指切りをするでもなく。ただの、言葉で交わされた、約束。
 それでも俺は、信じていた。それがいつか、果たされると――

(あれは、本当に夢だったのだろうか)
 今でも曖昧な、かの記憶は、一人称を変えた辺りから見るようになった。
 聞くと、兄にも同じ現象が起こっているらしいが、はてさて、これに意味はあるのか。
(……こいつなら、知っているかもしれない)
 もう一度、こっそりと隣を盗み見た。
 夢と同じ、凛とした横顔は、今は同じ立場の中にある。
(…今なら、一緒にいられる。時間だって、まだまだある)
 今なら、届く。この距離なら。

◇◆◇◆

「今度こそ、幸せに」
「今世こそ、幸せに」
「俺の事は」
「私の事は」
「忘れたってかまわない」
「あなたが幸せなら――」

「「それで、構わない」」
作品名:君に届く距離だから 作家名:テイル