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幸福測度計

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博士は発明した。
今度の博士の発明は「幸福測度計」だ。
これはどんな人や物にもある幸福というものを数字として具体化することができるものである。
相手の幸福度がすぐに分かるように見た目は体重計や車の速度計のようなメーター型で
丸い時計のようであった。
左端には「不幸」と書かれていて、右端にはご察しの通り「幸福」である。

博士は毎日の世間話にうんざりしていた。
人の不幸話、これはもう不幸自慢とでも言えるようなものであったが。
それを毎日のように聞く彼の気持ちは容易に想像できるだろう。
不幸自慢とは大抵自分とは関係のない話のことが多い。
それについて適当な相槌を打つのは意外にしんどい。
だってそれがどのくらい不幸なのかも想像し難いからだ。
それで博士はこんな発明を考えたのだ。

「さあ、さっそく使ってみるとしよう」
博士はそうつぶやき、ソファから立ち上がった。
「今日は本当に最悪な日であったよ。幸福測度計くん」
博士は自分の顔ほどもある幸福測度計を両手で持ち、それに話しかけ始めた。
「何しろ道に落ちているガムを踏んだんだからね。
それもお気に入りの新品の靴で。
こんなにひどい日はない!」
身振り手振りも交えながら返事もしない機械に博士は語りかける。
「聞いてくれ、幸福測度計くん。その上さらに雨まで降ってきて、
僕は傘を持っていなかったから雨宿りをしたんだが、
それでも雨は止まなかったんだ。
でも僕が諦めて雨に濡れながら家へ帰って来た途端、
ぴったりと雨は止んだんだ」
博士の話に合わせて測度計は徐々に真ん中にあった針を左へ寄せていく。
「ふむ。こんなものか」
博士の話が尽きた。
今日あった最低最悪の出来事を話してみても測度計はほんの少ししか左へ寄っていない。
博士の不幸度はまだまだであるということだ。
博士はなぜか少し悔しくなった。
しかし、この発明は成功したのだ。
それはとても喜ぶべきことだ。

この発明はどんどん実用化され、小型軽量化もされ、
今では皆が腕時計と一緒に腕に身に着けている。
「これで皆が僕のように不愉快な思いをしないですむな」
博士は満足気であった。

あるとき博士に電話がかかってきた。
この製品を使っているという人からであった。
「きっと感謝の言葉を聞かされるのだろう」
博士の幸福測度計は右へグッと寄っていった。
わくわくしながら電話に出ると若い女の人の声で
「もしもし?わたくし、幸福測度計をつかっているものですけれども、博士でいらっしゃるのかしら。
ちょっと言いたいことがあるのですが」
博士は謙遜の言葉を考えていた。
「わたくし、全女性が思っていることを言いたいの。
博士は分かっていらっしゃる?
女というものは自分の自慢話や不幸話を競い合うものなのよ。
自分の方が可哀想なのよ!って。
それがこんなものがあるがために、お互いの幸福度を測られて、
相手の方が不幸度が高かったらもう大変ですのよ。
とんでもない恥をかくことになりますわ!」
博士は驚いた。
褒められるどころか責められる始末。
それにこんなこと予想もしなかった。
まさか自分より相手の方が不幸で恥をかくなど。

そんなこともあり博士の発明はだんだんと排除されてしまった。
そして今やもう幸福測度計は博士の不幸度を示すことにしか使われていなかった。
作品名:幸福測度計 作家名:crambon