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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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風鈴の音

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金木犀の花が風に吹かれて池の水面に散っていた。オレンジ色の塊は風が吹くたびに形を変えていた。時々鯉が餌と勘違いしたのか、丸く口を開けて吸い込んでは吐き出していた。
藤棚につるされている南部鉄の風鈴がチチチチと忙しく音を立てている。真夏に涼を運んでくれた涼しい音ではない。もう何年もこうして藤棚につるしたままになっていた。釣鐘の形をしたこの風鈴は既に20年近くこの家に有る。初めは軒先につるされ、夏が終われば外された。
5年ほどすると藤棚に場所を変えてみた。風の当たりも良く、良い音を立ててくれた。色がさめ始めそのままにした。翌年には風鈴の紙を年賀はがきの余りに絵を書き新しくした。
その紙変えはいつしか楽しみとなった。
風鈴は確か岩手県の龍泉洞で土産に買ったいくつかの残りの様に記憶している。友人に分けた残りではなかったかと思う。
今年は暑中見舞いに、・・風鈴の音は昔のままです・・・と書かれたものがあった。
K子からであった。妻の同僚である。宛名は私と妻宛てであった。
私は爽やかな風の薫りを感じていた。妻を選ばなければ、k子と結婚していたかもしれない。
そのことを妻は知らない。
来年の夏はこの暑中はがきで風鈴の紙を作ろうと思う。きっと良い風を受けてくれるだろう。今はチチチと残り香の金木犀の香りとともに夏とは違った音を出しているが、来年の夏にはまた違った音色を聴かせてくれるような気がする。
作品名:風鈴の音 作家名:吉葉ひろし