FLASH BACK
耳元で囁くようにそう言うと、沙織は案の定、真っ赤になって照れる反応を見せる。予想通りの反応がおかしくて、鷹緒はからかうのをやめられないようだ。
「も、もうバカ。ちょっと洗い物してくる」
沙織は逃げるように立ち上がる。そんな沙織の腕を掴んで、鷹緒は引き戻すように沙織を抱きしめた。
「ごめん。洗い物は後にして、もう少しそばにいて」
さっきまでからかわれていたはずなのに、目の前にいる今の鷹緒はずるいくらい可愛らしく思う。だがそんなギャップが、沙織にはたまらなく愛しい。さまざまな面を見せる鷹緒はまるで未知数である。
沙織は鷹緒に抱きしめられながら、無理な体勢を整えるようにこたつに足を入れ、鷹緒を見つめた。
「鷹緒さんってば、ずるい」
「おまえが俺に正直でいろって言ったんだろ。俺は正直に生きてるだけだけど?」
「それは隠し事とかないようにっていう意味で……」
と言いかけたが、同じことだと思って、沙織は鷹緒の背中に手を回す。
「じゃあ今度、ちゃんと勉強教えてください……」
「……面倒くさい」
急に突き返した鷹緒に、沙織は振り回されている自分が馬鹿馬鹿しくも嬉しくも感じた。
「もう!」
思わず冗談で手を振り上げたが、改めて目が合った鷹緒の瞳は優しく、自分だけにその視線を注いでいる。嬉しさや悔しさなどのすべての感情を置き去りにして、沙織は鷹緒に抱きついた。
「イジワル」
そう言った沙織の髪を、鷹緒は静かに撫でる。
「ごめん」
「でも、嫌じゃないよ」
「うん」
鷹緒の額が、沙織の額にコツンと当たった。
「なんか……こたつから出られないね」
沙織の言葉に、鷹緒も笑って頷く。
「しばらくこのままでいよう」
「うん……」
二人の間に、今日も静かな時間が流れる。
作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音