FLASH BACK
明るくなってきた水平線に、鷹緒はカメラの微調整をする。急に真剣な顔になった鷹緒を見て、沙織は少し下がって広がる海を見つめた。
しばらくすると、日が昇ってきた。いつしか人も集まってきているが、鷹緒はそれを気に留めずにファインダーを覗く。
「ハッ……クシュン!」
その時、後ろでクシャミをした沙織に気が付き、鷹緒が振り向いた。
「大丈夫かよ?」
「う、うん。大丈夫……」
「……こっち来て」
鷹緒に呼ばれ、沙織は首を傾げて近くに寄る。すると鷹緒は沙織を抱き寄せて、後ろから沙織を抱きしめるようにしてカメラに触れた。
「あったかい……」
「ファインダー、覗いてみる?」
後ろの鷹緒を意識しながらも、沙織は頷いてファインダーを覗く。ファインダーの向こうには、海の中からのぞく岩をバックにした美しい日の出が見える。
その間にも、鷹緒はシャッターを切っており、並べたもう一台のカメラの様子も窺っている。
「わあ、すごい綺麗……」
それ以上言葉にならないように、沙織はそう呟いた。
やがて太陽が昇り、集まっていた人たちもいつしかいなくなり、鷹緒も前屈みだった身体を起こす。
「……終わり?」
「そろそろな」
「綺麗だったあ。ねえ、出来たら写真欲しいな」
未だ後ろにいる鷹緒に振り向く沙織の頬に、鷹緒の頬が触れた。それはたった一瞬のことだが、まるでキスのように愛しく感じる。
「あ……」
動揺した沙織の頬に、鷹緒はそっとキスをする。公衆の面前とも言えるべき屋外だが、鷹緒の陰に隠れてそれは見えないだろう。それでも沙織の胸は高鳴った。
「片付けるよ」
言葉を失った沙織にも、鷹緒はいつも通りの態度でカメラと三脚を片付け始める。
そこに、別行動をしていた俊二と広樹もやってきたので、鷹緒が振り向きながら口を開いた。
「おう。いいの撮れた?」
「自信あります」
「こっちもまあまあ」
俊二の答えに、鷹緒は満足げにカメラケースを背負う。その横では、未だ沙織が動揺したように頬を染めていた。
「じゃ、帰ろうか」
「ああ」
先に歩き始める広樹と俊二の後ろで、鷹緒が沙織の頭をコツンと叩いた。だがその顔は優しく微笑んでいる。そのまま歩き出す鷹緒を追って、沙織は照れて俯き、小走りでついていく。そんな沙織の肩を抱くようにしながら、鷹緒は沙織の頭を撫でた。
「今度は二人で海に来よう」
そっと言った鷹緒に、沙織は頬を染めて頷く。
「あれ、沙織ちゃん。顔真っ赤じゃない。寒すぎだよね。早く戻ろう」
振り向いた広樹がそう言ったので、鷹緒と沙織は照れるように笑って、車へと戻っていった。
作品名:FLASH BACK 作家名:あいる.華音