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超短編小説  108物語集(継続中)

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 吊り上がった眉毛の間に三日月の傷跡がある。
 この魔物のような形相に思わず叫んでしまった芹凛に、百目鬼は低い声で「そのようだな」と同意した。このような検死から二人の刑事の捜査が始まった。
 だが事件は早速大々的に報道され、世間の解釈があらぬ方向へと向かう様相となる。
 その証拠に、夕刊紙でも。

 相場師・燻屋銀次郎、未明に殺される!
 相場格言に、ブル(牡牛)マーケット、つまり強気相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観とともに成熟し、幸福のうちに消えて行く、とある。

 その生きた牡牛の目を抉(くじ)るのが上手いと言われてきた銀次郎、最近その勝負勘が鈍ってきたと言われている。
 銀次郎は年初の株式座談会で、「悲観はすでに終わった。今年から強気相場が育ち、成熟して行きます」と断言した。もちろん燻屋の信望者はこの言葉を信じ、買いに走った。

 しかし、中国の景気低迷、原油安、イエレン議長の米国金利政策、ドイツ銀行破綻、日銀によるマイナス金利、その上に円高と、まさにマーケットはリスクの百花繚乱状態へと変貌したのだ。
 このように地合が悪い状況に陥り、個人投資家のマネーはあっと言う間に溶けてしまった。この深刻さは連日のネット投稿サイトの掲示板で明々白々である。特に燻屋ファンたちの気持は一転、恨み骨髄に入り、銀次郎の身に何が起こってもおかしくない事態となったと言える。

 某評論家の弁によれば、銀次郎に騙されたと憤怒する者が生き残り銘柄を教えて欲しいと誘い出し、飲食後に地獄に落ちた恨みで殺害した。充分納得できる推察で、現在この線から捜査本部は犯人を追っていると思われる。