超短編小説 108物語集(継続中)
お茶は充分冷めた。洋介はゴクリと飲んでみる。
「シブッ!」
しかし、しばらく口に含んでいると、どことなく甘さを感じる。それと同時に日常の不満が徐々に和らいで行くから不思議だ。洋介は母(カカ)が点ててくれた一服の茶をゆっくりと飲み干す。
「さあ、越えてみようという邪心を捨て、登り来た道を帰ろう」
こう結論を下し洋介は席を立った。その背後から精霊の歌声で、女将が洋介の決断を後押ししてくれるのだった。
♪ こっから峠 こっから峠
先は地獄の淵か、天国か?
渋い緑茶に 茶柱立てば
越えてみなはれ こっから峠
甘い緑茶に 茶柱なくば
さっさと戻んなはれ こっから峠 ♪
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊