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超短編小説  108物語集(継続中)

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 長い旅路の果てに、二人がやっと辿り着いた終の棲家。そして今朝見る小さな庭の雪化粧、凛太郎の目には今、朝方のグレー色からセンチメンタルに蒼く見える。されども、これは日常生活の一コマ、さほどときめくほどのことでもない。

 凛太郎はこの感傷を吹っ切るかのように、「さぁーて、昨日の日経平均の終値は? 今日も荒い値動きになるのだろうなあ」とパソコンを立ち上げ、株式売買サイトへと入って行った。
「俺にはもう、雇ってくれるところがない。株取引で生きて行くほかないんだよなあ」
 実に自虐的に、凛太郎はついつい無念を漏らしてしまう。

 そんな時に、麻伊が大きく伸びをしながら二階から下りてきた。そして、ぽつりと口にする。
「メリー・クリスマス」

 うん、確かにね、今朝の挨拶はメリー・クリスマスが似合ってるかも。凛太郎はパソ画面から顔を上げ、とりあえず「You too.」と返した。
 あとは硬い表情を解き、「久し振りのホワイト・クリスマスだよ。昔、麻伊は好きだったろ?」と問い詰める。
 これに一拍おいて、麻伊が照れ笑い。そして一言だけ返す。「ふーん、そうだった?」と。

 雪が――こんな穏やかな、今日という日の始まりを運んできてくれた――と言えるのかも知れないなあ、と凛太郎はふと思うのだった。