超短編小説 108物語集(継続中)
夏の始まりだというのに、森林公園の月が異様に青い。そして木々の葉がざわざわと揺れる。多分悪霊が息を吹き掛けたのだろう。
その紺青の闇を破るかのように、激切なピアノの三連符が響き渡る。
「いよいよ始まったか」
噴水の縁に立つ霧花圭(きりはなけい)は野外舞台へと振り返った。その動作に間髪入れず、甲高いテノールの歌声が――。
♪ Wer reitet so spat durch Nacht und Wind? (夜の風をつき、馬で駆けるのは誰だ?)
シューベルトの歌曲『魔王』だ。圭は神足なテンポに魂を震わす。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊