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超短編小説  108物語集(継続中)

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 それでも精一杯、「ひょっとして、姉と弟だったりして」と冗談を飛ばしてみた。だがカズラは笑う風もなく、むしろ物足りなさそうな面持ちで言う。
「私たちはもっと濃い仲よ。つまり私はあなたで、あなたは私なの。そうよ、一樹君は私の化身なの」

「えっ、僕がカズラのお化け、ってこと!」
 一樹はぶったまげた。しかし妙なものだ、こんな場面では「僕が女性の化身だなんて、ちょっとヤバクない?」と珍奇な反発しかできない。これにカズラが秘めた胸の内を明かす。

「女性が会社で仕事して行くって結構大変なのよ。私ね、社会人になる時に、裏切らない男性の味方が欲しかったの。それで妄想を一杯していたら、一樹君が入社式に現れたのよ。嬉しかったわ」と。

 されどもそれは一樹にとっても同じこと。自信が持てない一樹の前に、突然カズラが登場したのだ。そして、そう振り返る一樹に、カズラは目に涙を一杯浮かべ、
「私たちは葛(くず)の葉の裏表みたいなもの。裏の一樹君のお陰で、表の私はずっと緑に輝き続けてこられたよ。ホント楽しかったわ、だけど……」

 この時一樹は悟った、もし自分がカズラの化身ならば、もう役目は終わった。あとは特に意識したわけではないが、カズラが言おうとしていることを呟く。
「僕のすべてを喪失してくれ、ってことだね」

 カズラのためなら、それもやぶさかじゃない。そんなことをふと考えた瞬間だった。一陣の風がサーと吹く。
 一面の葛の葉がひらひらとめくり上がり、葉の裏の白さが目映く光る。きっとこの風は、夏から実りの秋への、季節の移ろいを告げる――葛の裏風(くずのうらかぜ)。

 その天からの一瞬の告知に、カズラはこくりと頷いた。そして、まるで風にさらわれるかのように……、喪失した。