超短編小説 108物語集(継続中)
「夫の蒼々(そうそう)が殺されるなんて……」
喪服姿の女優、空恋慕(そられんぼ)が記者団を前にして言葉を詰まらせた。そしてハラハラと零れ落ちる涙、それが止まらない。それでも辛辣な質問が続く。
「蒼々さんが殺害された時間帯に、マンションに出入りした女性が防犯カメラに映ってたとか。その方は蒼々さんの愛人のようですね、ご存じでしたか?」
こんな問いに対しても、さすが大女優、シャキッと姿勢を正す。そして「夫に愛人がいたかどうかは、私は知りません」と切り返した。
だが記者は「おしどり夫婦だったのに、裏切られた。そんなお気持ちでしょうか?」と、しつこく愛人問題にフォーカスし、食い下がる。恋慕はこれを無視し、深々と一礼。そしてくるりと踵を返し、奥へと去って行った。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊