超短編小説 108物語集(継続中)
現代ファションは氷河期、その原因はデジタル依存の若者たちの感性の欠落にあります。
アパレル会社社長の江黒竜也(えぐろたつや)がTV出演し、居丈高に世相を評する。まさに鼻持ちならぬ態度だ。
そんな映像を背に、一人の男が「私が募武(ボブ)です」と自己紹介した。そして「転がる」と言い足す。
これに美形の、されどもやつれた女が「石の」と続け、頭を下げた。それを確認し、この世のすべての不運を背負った風体の男が「ように」と締め括った。
こんな奇妙な会話の後に、募武は一拍の間を取り、「この三人の出会いの合い言葉は――転がる石のように。もう後戻りはできませんよ」と相手を窺う。
すると男と女は拳を握り締めたまま深く頷く。これに歪んだ笑みを浮かべ、「さっ仕事を始めましょ」と募武が地図を広げるのだった。
作品名:超短編小説 108物語集(継続中) 作家名:鮎風 遊