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超短編小説  108物語集(継続中)

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 白綸子の打掛に白袴、背には赤子を背負って、亜伊は馬に跨がった。ただただエクレウス号を信じ、三晩の野宿をした。そして大きな川の前へと辿り着いた。辺りに目をやると、白花を散らす沙羅双樹がある。そして、たたずむ青年がいた。
 やっと見付けた。亜伊は花嫁衣装に赤子を背負ったまま潤の胸へと飛び込んで行った。潤もこの再会が余程嬉しいのだろう、亜伊を愛情込めてぎゅっと抱き締めた。

「さっ、潤、帰りましょう」
 亜伊から発せられたこの言葉に、潤の顔が曇る。
「亜伊、済まない。私はこの世で亜伊と一つの命を紡いだ。だからもう、私が住む冥府、向こう岸へと渡らなければならない」
「なんでなの? 折角迎えに来たのに、なんとかならないの?」
 亜伊はこの理不尽が理解できない。怒りさえ覚える。潤は愛する亜伊の心情が不憫となり、話してはならないことを漏らしてしまう。
「私の身代わりがあれば、……」と。

 その時だった、二人の背後からしゃん、しゃん、しゃんと軽快な音が聞こえてきた。それはエクレウス号が駆け来る音だ。そして猛ダッシュに。亜伊はこれほどまでのスピードを見たことがない。
「どうしたの!」
 エクレウス号は亜伊の叫びを無視し、まるで天空を飛翔するかのごとく、川の中を疾走した。そして向こう岸へと。
 共に生きて来た愛馬はこちらを振り返り、高く前足を上げ、ヒヒーンと一鳴きした。それから今生の縁をすべて断ち切るかのように、闇の向こうへと消えて行った。

「ありがとう、お前は小馬座、エクレウスへと帰るのだね」
 潤と亜伊は、二人の純愛の一粒種を抱き締めて、三途の川の彼岸へと手を振るのだった。