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超短編小説  108物語集(継続中)

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 春樹はサラリーマン。多忙な日々の中にあったが、やっと休暇が取れ、気分転換にと中国を旅した。そして訪ねた古都、洛陽の夜店でたまたま一冊の古書を手にした。表紙には外伝とだけ書かれてある。

 実のところ、最近付き合いだした貴美子(きみこ)、世間では滅多に見掛けない古書大好きレディーだ。その彼女にもっと気に入られようと、そんな魂胆で購入し、土産として日本へ持ち帰った。
「えっ、信じられない。この外伝の伝記は──魏志倭人伝よ!」
 カフェで貴美子に逢い、手渡した古本。これを手にしていきなり叫ばれても、春樹はコーヒーカップを持ったまま呆然となるだけだった。

「外伝には伝記の裏話や補足があるのよ。私に1週間の時間をくれない、読み解くわ」
 貴美子は食べかけのケーキをそのままにし、席を立ち、さっさと帰ってしまった。「これが古書女の振る舞いか」と春樹はただただポカーンと見送るしかなかった。

 それから1週間後のこと、貴美子がケイタイの向こうから話す。「私、山に行きたいの。ご一緒してね」と、ほぼ強制的に。
 女がだいたいこんな誘いをする時は、なにかが危ない。春樹はそんなこと百も承知。だが惚れた弱みか、「ああ、いいよ」と軽く返す。

 それでもちょっと気になる、「何しに?」と訊くと、貴美子が甘い声で囁く。
「春樹と一緒に、アケビに山栗、それに自然薯(じねんじょ)を採りに行きたいの」
 春樹はこれで覚悟を決めた。要は汗水流す労役だと。そして予想は的中し、まったくの肉体労働だった。例えば自然薯なんて穴を2メートル掘らないと採れない。それでも貴美子のため春樹は頑張った。

 そしてアケビ10個、山栗500グラム、自然薯1本の収穫で、まさにヨレヨレ状態で貴美子のアパートへと引き上げた。