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超短編小説  108物語集(継続中)

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 甲子園を目指しての県大会、その9回の裏、スコアは2対1。2塁3塁に走者を出してはいるが、すでに2アウト。このまま逃げ切れば、甲子園に出場できる。
 マウンドに立つ拓史(たくし)は2ストライクと打者を追い込んでいた。

「拓史、頑張って!」
 マネージャーをしていた幸子は大きな声をかけた。しかし、この声援はいつもと違っていた。それまでは「拓史君」と君付けしていた。だがこの時は本心の叫びなのだろうか、より近しい呼び捨てとなってしまった。

 拓史が微かに頷いた。甲子園に共に行き、そこから一緒に生きて行こう。そんな決意を高校生なりにもしていたのかも知れない。
 拓史は勝利への1球を、キャツチャーの洋一が構える外角一杯に投げた。そのボールはそこへ真っ直ぐ吸い込まれていく……、はずだった。

 だが、幸子への雑念が襲ったのだろうか、白球はホームベースの前で不規則なショートバウンドとなった。
 きっと洋一もここ一番の球筋に慌てたのだろう。普段なら身体で止めるところだったが、後逸してしまった。

 当然、3塁走者はホームへと突進する。洋一はバックネットへと駆け寄り、そこで拾い上げたボールを、カバーに入った拓史に返した。しかし、3塁走者はすでにホームベースを踏んでいた。
 同点だ。しかしまだチャンスはある。ここで辛抱すれば良かった。

 しかし、2塁からの走者は3塁ベースから大きく飛び出してしまっている。拓史は血が騒いだのだろう、3塁カバーに入っていたショートの大介に投げた。しかし、今度はこれを大介が後逸してしまった。
 結果、3対2の逆転サヨナラ負け。まったく下手な野球をやってしまった。そして甲子園への夢は露と消えてしまったのだ。