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超短編小説  108物語集(継続中)

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 男Aはやっと残業を終え、オフィスを飛び出した。イケメンでもないし、高給取りでもない。これといった趣味もない。別に世の中を恨んでるわけではないが、まさに無い無い尽くしのサラリーマンだ。

「もう30歳、彼女でもいてくれたら、もっと楽しいだろうなあ」
 恋愛のチャンスもなく、もちろんデートもない。今日も今日とて男一人電車から降り、バス停へと向かった。
 ここからアパートまで30分、バスに乗らなければならない。
 時計を見れば、最終まで少し時間がある。コンビニに入って、とりあえず夜食の焼きオニを確保した。
 あとは時間待ちで立ち読みをする。

 そしていつの間にか――ザァー、外は雨。
 その雨音で男は我に返り、コンビニを出て停留所へと走る。ところがすでにバスは発車したところだった。
「しまった! 立ち読みなんかしなきゃよかった」と後悔しきり。そんな男Aをあざ笑うように横なぐりの雨が容赦なく吹き付けてくる。
 そんな時に気付くのだ、横に女性が一人たたずんでいるのを。

 言ってみれば──、出てしまった最終バスを待つ女。
 ちょっと不気味だ。だが背はスラリと高く、赤い傘を持っている。なかなかセンスがいい女性だ。
「あのう、バスは出てしまいましたよ」 男がこの不運の同志のように声を掛けてみると、女は「あらっ、そうなの」とじっと見詰めてくる。

 色白な顔に、切れ長の目が鋭い。しかし、差された紅がその表情を和らげ、濡れた黄金色の髪と相まって……、男は一瞬ドギマギと。 それと同時に、この出逢いが俺の平凡な日々を変えてくれるかも、と思い、あとは勢いで、「どこへ行かれるのですか?」と尋ねた。
「こんこんちき山よ」
 女はこう返し、連れてってという目で迫ってくる。
 男は、なぜこの雨の中、こんこんちき山なのだろうかと疑ったが、「そこなら途中ですから、タクシーでお送りしましょう」と誘った。