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超短編小説  108物語集(継続中)

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 この二人は1年前に知り合った。そして熱い恋に落ち、情を交わす仲ともなった。
 その決着にと、京都で生涯暮らして行くつもりの男は、東京との中間地点の名古屋で女と落ち合い、「君を娶りたい、ぜひ京都にお嫁に来て欲しい」とプロポーズした。
 東男に京女、それは古い時代から吉兆な組み合わせとされてきた。だが、その反対の京男に東女、これはいささか縁が薄い。果たして女からどんな返事が返ってきたのだろうか?

「大輔さん、私、京都に遊びに行けるのだけど……、嫁ぐとなればね、ごめんなさい、やっぱり越えられないのよ」
 断られることもあるかと覚悟をしていた大輔、しかしもう一つ言葉の意味がわからない。
「麗莉(れいり)、その越えらないって……、何が越えられへんねん?」
 焦りか、最後は関西弁の問い詰めになってしまった。
 それに女は淡いピンク色のハンカチで涙をぬぐい、ぽつりと一言呟く。
「箱根の山が」

 これは理屈ではない。この現代にあっても、東京の女が文化の異なる関西に嫁ぎ行くことは困難なこと。要は箱根の山が越えられないのだ。
 それでも一大決心し、たとえ越えたとしても、次のバーチャルな障壁、関ヶ原がある。そこが突破できない。
 とどのつまりが、京男と東女は結ばれない宿命を背負っているとも言える。

 こんな運命に支配されてしまった大輔と麗莉、あとは不幸な結末しかない。しかし、その割には別れはそう悲劇的なものではない。
 大輔はその宿命に逆らうこともなく、「しゃーないなあ」と一言漏らし、麗莉に最後の手を振って、西への新幹線に乗り込んだ。

 麗莉の方ももう涙はない。この1年の愛の遍歴を名古屋にすべて置き去りにして、18時03分発の東京行き、のぞみ244号のドアに駆け寄った。あとはツンと澄まして乗車する。
 名古屋という地には、いつもこんな男と女の生々しい物語がある。もちろんこれだけではない。